790

北方のケルキパ共和国では 春に咲く喇叭のような花被片がついた黄色や白色の花 そう細い葉が根もとからすらすらと伸びるあの花のことを 『復活祭の百合』と呼んでいた 移動祝日なので 咲いていない年もあったけれど 大体この時期には咲きはじめている 

 

外はまだ雪が残っているので 卵はうちのなかに隠す 屋根裏 寝室 台所 こどもたちの数だけちゃんとあるから大丈夫 隠したまま忘れることもない

 

f:id:mrcr:20170414171520j:image

 

 

 

 

789

服も口紅もしっくり来なかったのでそれはわたしの色ではなかった 毎日見ている顔なのだから似合わない色くらいわかる ただ機会があれば試すのは大切なことだ 思いがけず似合うことだってあるのだから 知らない間に味覚が変わるみたいに

 

結局 食料品店で生魚を買った 先日バターを安く手に入れたのでムニエルにしようと思う それと玉葱のスープ サラダはブロッコリーとゆで卵をレタスと混ぜてミモザ風にしたい なにせもう春なのだから

787

くだらないことは日記に書けばいいので ここにはくだらないことしかない 本当のことを書けば愚痴なるから書きたくない いらいらするのはPMSだけど 高層マンションの非常階段を見ても「あそこから落ちたら死ねそう!」とは言わなくなったし 恋人に当たり散らすこともやめた 面倒だからもう全部無かったことにしたい くだらないことしか言えない 本当のことを言って否定されるなら言いたくない くらくらするのは低血圧だけど 朝起きられない理由にならないし 副作用が酷いから薬を飲むはもうやめた 億劫だからもう全部無かったことにしてほしい なんて不完全なんだろう そうして耐えられないわたし自身の存在に嘔吐したんだった

786

復活祭の飾り付けをしようと思ったのに あのカラフルな羽根がもうどこにも売っていない 仕方がないので 家にあった餅をこねてつけることにした 紅も混ぜて 白いのと互い違いにつけたら 正月飾りになった

ウサギの形をしたチョコレートを手にした子供「どうして卵とウサギなの」と尋ねる 「それはね坊や ウサギは一羽 二羽と数えるでしょう」 「へぇ 僕ウサギの卵見たことないや」

わたしだって見たこと無いわよ

 

ギムナジウムで飼っていたウサギが死んだとき 体育館裏へ埋めに行ったら 白いちいさな卵の殻が落ちていて 誰かが「蛇の卵だ」と言った 恐らくそれは本当にそうだったのだと思う

785

愛されることは難しいけど 愛することは出来る 或いは愛されていることが前提であるので 信じていれば その存在を心の何処かにおいておけば きっと安らかに眠ることが出来るだろう 闇の中で目を覚まし震えることもなく 遠い山並みから朝陽がのぼり 空が白んでゆくときまでずっと 穏やかに

784

透明のビニル傘に花弁がくっついて ちいさな模様が出来ているのは綺麗だと思う 霧のような雨には 花の色がうつり ロゼ・アンペリアルの雫のように輝いている 草の上で私たちは春の訪れに祝杯を捧げた

783

フランス語の辞書を買ったので 目についたフランス語っぽい単語を調べるようにしている

可愛い雑貨屋さんの柔らかなビニール袋に書かれていたのは 日本語と同じ意味の花の名前だった そのしたに書かれた mon jardin secret という言葉 わたしの秘密 どんな秘密 あるいは秘密の何か 答えは jardin のページにあった

 

わたしの秘密の庭には 誰も入れてはいけない 自分でさえも入ってはいけない どれほど注意深く歩いたとしても 草を踏み躙ることになるから

 

782

雨の匂い

錆びた欄干沿い

湿った草叢の柔らかさよ

 

花びらが散る

風が吹くたびに

揺れる木から

はらはらと追われるように落ちる

川はもう水門の柵が

薄紅色で一杯に押されて

それでも開けられることはないけれど

沈むことも出来ないで

揺蕩うばかりで夜は更ける

781

高級な出汁を使ったら味噌スープが料亭の味になった えーそんな まさか ほんとなんだなこれが どこの国でも その地域の美味しいものがあるけど 味噌スープが美味しく頂けるのってほんと幸せ でも小籠包は台灣で 玉葱スープはクラクフが一番だと思うし ストックホルムにいるママが作り置きした冷凍の肉団子も大好き 食欲も性欲も我慢するから 適当に済ませたくない 限られた時間の中でより良いものを味わいたい 寝るのは好きだけど 本当は眠るのが惜しい 身体がついて来れないだけで どうしようもなく眠い