1346

骨なんかいらないからわたしより長く生きて 5分でも いいえ 1秒でもいいから そしてわたしのことを忘れないで 愛してくれなくてもいいの かつてあなたを殺したいほど愛した女がいたことを その存在を忘れないで 最後に この世にいる間はずっと友だちでいて…

1345

あの人の香りは頭が痛くなる たぶん香水をつけすぎなのだ 朝のうちなんて目を閉じていても彼の気配がわかるし 残り香だって高校受験のまえ 通っていた塾に来ていた男の子たちの多くと仲が悪かった というのも わたしを嫌いな女の子と彼らがつるんでいたから…

1344

毛糸を買いに行ったのに 店が床屋に変わっていた もう随分前から移転していたらしい 別の店へ行くと今度は改装中の貼紙 そういえばかつてここらには輸入煙草を扱う店があって 路地で一服することもしばしば 今では路上喫煙禁止条例のもと 二人組の監視員がお…

1343

オイジェツが掘り起こしてきた牛蒡はまるでオテサーネクそのものだったので マトカにその話をしたら 知っている気がすると話し出したけれど 多分彼女は観たことないと思う オイジェツは流しのところでかなり苦労しながらオテサーネクをばらばらに切り刻んで …

1342

休日が退屈なら 週末が不要なら 勝手にしやがれ(わたしはひとりでドライブに行きます)想像できないことを書けないなら なんでも試さなければ話せないなら 詩人にはなれないな 経験した物事について 言葉をうまく選んで伝えられるのは素晴らしいことだけど …

1341

眼があってしばらく呆然としたことに理由などないから その顔に見覚えがあったわけでも 見惚れていたわけでもない もしふたりが愛しあう未来があるとしたなら その瞬間 恋に落ちたのですとキャプションをつけることで 人生がほんの少しだけ明るく色めくだろう…

1340

学食へ行くとボルシチが216円だったので あまり期待はせずに-大抵の場合 日本で食べるボルシチにはビーツが入っていない-注文すると 案の定 борщのбの字も入っていないような たっぷり豆が入ったミネストローネが出てきたので 家に帰ってレシートを整理す…

1339

この河は途絶えない どんなに晴れの日が続いて村が干上がっても 湧き上がるのだ 深い泉の底から 絶え間なく聴こえる風の歌のように かつてわたしとおまえは同じ泉の水を飲んで育った ずっと 生まれる前からそうしてきたように 冷たい流れを全身で感じながら …

1338

久しぶりに通った街の 建物や道路 街路樹なんかは変わらないのに 街の名前が変わって なんだか知らないところみたいだった 特に愛着もないけれど 僕が知る街ではなかった

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不在ということ. わたしが求めるものは手に入れることが出来ない. 注がれるものもまたかたちがないのであるけれど. そこにいないひとを愛し, 求めてはいけない愛を要求する. 転じて それは神への純然たる信仰そのものとなる. 姿かたちのない概念, 畏れるべき…

1336

B.Bと呼ばれたあの有名な女優と同じ名前をもつ美術教師は 初めて会った時からわたしのことを気に入ってくれた どれくらい気に入ってくれたかというと 単位を取らなくていい講義の時間には自分の授業を受けたらいいと強引に空き時間を埋めてしまったり 違う…

1335

その街を訪れたのは まだ一度しかなくて 今後また訪れるだろうかというとわからない かつて優しかった男たち 神に仕えていた男や 海で働くことを生業としていた男たちとは もう会うこともないので あの優しさが本当の真心であったかどうかなど 今となっては…

1334

揚げたてのコロッケを頬張りながら こんな風に お腹も空いてなかったのに助手席で食べたことがあったなぁと思い出した 駐車料金を支払うのに小銭がなくて 近くの精肉店であの人はコロッケを買ってきたのだったあの人は少しも誠実ではなかったけれど コロッケ…

1333

汗ばんだ背中を手で撫ぜたときの感触を思い出していた 会議は終始水の掛け合いで終わり なにも生まれなかったし 壊されたものもこれといってなかった もしかするとそれ自体が夢だったのかと錯覚するほどの退屈 沈黙していることが賢明だと考えられたので 黙…

1332

水槽の掃除をすること流されないように注意すること日没が早くなり夜明けは遅くなった 北方では間も無く雪が降り始めるだろう 今年こそ手編みの手袋を完成させることが出来るだろうか ほどいては編んで 子供の手は少しずつ大きくなる やがてはわたしの手より…

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ニルゲンドヴォに秋が来たというので 遊びに行くと 村の入り口でちいさな妖精たちが赤やオレンジ 茶色のペンキで汚れた服でふざけていた どうやら樅木を紅葉させようとしていたらしいが あまりに背が高いので諦めて地面に手形を付けて落ち葉が積もっているよ…

1330

鳥は歌わぬ 都会の午後に愛は流れぬ 淀んだ水辺を風がそよぎて木々は揺れ哀しげに笑う顔を隠した 他人になれたら楽なのにいつまで経っても愛しいもう一生会えないとても忘れないでと私は言った

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することもないので映画を観ていて思ったのは それなりに疲れるということで 泣きながら鑑賞したわりに話はあまり記憶に残っていない 安い涙だったどうしたって疲れてしまう 気圧のせいにしたいけれど 実はあまり関係がなくて よく晴れた気持ちの良い日にも…

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また嵐が近づいているので ボルシチを作ってパンを焼いておこうと思う 新鮮なセロリが手に入れば良いのだけど詩を書かなくなるのは何故だろうと聞かれた彼女は 生活を営むことに専念するからじゃないのと答えた 食べるのが楽しみになる美味しいご飯を作るこ…

1327

ちいさなダイヤがついたゴールドのペンダントが欲しい そう 白いリボンがかかった水色の箱に入ったあのブランドのやつ でもたぶん似合うのはプラチナだからそっちがいいかな なんて ジンクスではゴールドのチェーンで0.05カラットくらいの無色のダイヤがつい…

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あのひとに少しずるいところがあるのは 傷つかないようにするためかもしれないけど 他の人の気持ちはどうなるの ああ もうそんなこと気にしなくたっていいし 捨てられてもぼろぼろになったと思わなくていい 全部忘れてしまえ!

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微睡んだまま手脚を動かし 俯せの体勢から膝を腹の方へ寄せて腕を頭のほうへ伸ばし 猫のように伸びをする 右へ 左へ 肩を鳴らしながら さっき見ていた景色が夢だったんだと朧げに思い出して 少しだけ安堵した あまりに深く 透明な海と そのなかを泳いでゆく…

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死に至る病というよりは 性質の悪い風邪のようなものだった あなたが幸せになってほしいし わたしも幸せになるべきだからなんて格好をつけていたけれど 彼では彼女を幸せに出来ないと見切りをつけただけのことで ただ時間がかかりすぎたのだ 長い目で見れば…

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完全に心が戻らない乾いた唇と唇が触れ合うほんの数秒間に 色んなことが思い出されて この関係性がもう終わりに近いこと または生涯にわたって続けられることを感じた 相反する想いが 結局は実らない恋であることを確信しているのはわたし自身の理性によるも…

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掴めない水のかたちを描く流線型の速度 あらゆる規制と制限を逃れて溢れ出す匣のなかから いつか見たことがある景色を眺めていた

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ふるい映画を観た 非常によく知られた曲が今なお新鮮さを失っていないと人気で 曲だけを知っているひとも少なくないと言われている マトカは若いころ汽車を乗り継いで街の映画館まで観に行ったというが 肝心の内容は忘れてしまったらしい 実際のところわたし…

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くたびれた身体を起こし 顔をあげると大きな月が見えた こないだの満月は雨で見えなかったけれど まだそれなりに丸いし とても明るくてきれいに光っていた青い色が好きだ 大好きな空も海も青いから 初めて作ってもらったワンピースは青いギンガムチェックの…

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幾つかの通り過ぎていった景色を思い出して 継ぎ接ぎの記憶を辿れば 短い夏が出来た 初めて出会ったのは雪の日だったのに ぜんぶ夏になるのはどうしてなのだろう たった500日ぽっち 2年にも満たない時間 わたしは確信している ふたりが流れていた河がもう二…

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すこし肌寒くなってきたので 空気の香りを変えた 夜に咲く花だけを集めて煮詰めた甘い匂いは 山で拾い集めた骨に染み込ませると ただ瓶から放つよりも長いあいだよく香るのだ 肉がこそげ落ちた大きな角のある動物の頭は 焼かれた骨と違ってまだ温もりを感じ…

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男の顔は履歴書とか 30歳の顔は生き様とか言えど 見た目なんてそれほど重要ではなかったはずなのに なんだか一気に冷めてしまって なんてことだろう あの人はもうかつてのように嵐に立ち向かうことも 青々と広がる海に帆を張って船出することもしない だろう…