2013

どこまでも続く大海原、本当に自分は今船の上にいるのだと実感する。甲板から何もない群青の流動体が時折白い波を立てるのを眺めながら、映画『タイタニック』や『戦艦大和』を思い出した。どちらも沈没する。縁起が悪いので沈没しない映画はと考え『船上ピ…

2012

どうして北の街では、コンクリートの建物に絵を描くのだろうと思ってから、雪に埋もれてわからなくなるからという仮説をたてた。そんなことないと思うけど、白い車が走っていないのは、それこそ雪に埋もれてわからなくなるかららしい。塩化カルシウムでボロ…

2011

船旅に出ることにした。産まれた街へ行く為に、先週思い立って2等客室を予約したのだった。何があるのだろう。何も残ってはいないことを知りながら、わたしは北の大地を目指す。寒いニルゲンドヴォの遥か北の地だ。原住民はみな、海豹の毛皮を纏っているら…

2010

長引く戦争が終わらないうちに、また新しい戦争が始まった。そもそもそれは一度も終わったことはなかったのだけど。遠藤周作氏の本を棚から取り出し、薄い綺麗な紙を巻き付けて読み始めた。読み直そうだ思ったが、一度でも読了したのだったか怪しい。まるで…

2009

子どもの時に作った歌を時々口ずさむ。 左ハンドルの救急車はアメリカ生まれの超合金 灰色に濁った空によく似合う白いウサギの赤い眼は 君とよく似た曼珠沙華 いまでも意味がわからない。自分でさえも。 ただ、私は今でもアメリカに行ったことがないから、救…

2008

日々は流れる、あの人が返事をくれなくても。

2007

遠くの街でこの冬初めての雪がふったという。その街で私が産まれたのは、もう随分と昔のことだ。港とガラス工房のある街。美しい夜明けを迎える街のことを、私はほとんど知らない。

2006

昼過ぎに眼が覚めて、慌てて汽車に乗った。目覚ましが鳴らなかったのだ。セットしていなかったから。

2005

ともだちの誕生日だった。もう10年近く会っていない。名前も顔も忘れていないし、お互いの誕生日にはカードとちょっとした贈り物を送りあっている。けれども、なにをしているかも、どのように生計を立てているのかも知らないのだ。そして、それはなんとなく…

2004

クリスマスケーキの予約が始まった。わたしは今年も買わない。作るかもしれないけど、わからない。

2003

あの人は冬に生まれた。祝福の元に、天子様の子として産まれたのだった。水曜日だった。悲しみに溢れた子ども。Wednesdayはsadnessdayだったのか。繊細で、美しくも論理的な文章を綴るひと。感情が少なく、石のように冷たい心を持つ人。けれども、熱くなった…

2002

昼の2時ごろが一番憂鬱になる。そして、眠たい。

2001

今日もあの人が好きだった。どうしようもないのに、好きで、夢の中で一緒にドライブをしていた。現実では私が運転していたけど、夢では彼がハンドルを握っていて、私はそれが怖かった。ひとの運転が苦手なのだ。公共交通機関は良いけど、自家用車の助手席に…

2000

掃除、洗濯のち買い物へ出た。ここのとこ天気も悪いし、なにより急に寒くなったのが身に堪える。混雑は苦手だが、百貨店は明るく、きらきらしていて楽しい。 頭痛を抑えるために薬を飲んで眠る。滅多に飲まないせいかよく効く。ずっと痛みを誤魔化していけた…

1999

七の月に世界は終わるって誰が言ってたんだっけ? カルト教団が起こした地下鉄の事件と、都市部を襲った震災のあとから、不条理は非日常ではなくなってしまった。世界は滅亡すると言われていて、津波をもたらした大きな震災が起きたり、現在進行形で続く戦争…

1998

高いところから飛び降りたことはある?わたしはある、といってもせいぜい5〜7mだし、水のなかに飛び降りたからただの飛び込みだけど。それでも、結構ドキドキした。絶対死なないってわかっていたけど怖かった。飛び込みの選手みたいに綺麗に落ちないから、入…

1997

卵を買った。平飼いのものしか買わないことにしているので、夕方だとなかなか手に入らない。もちろん、400円以上出せばあるにはあるけど、それは少し高すぎる。平飼いといっても色々あるらしいけど、鶏舎よりはマシな気がする。似たようなものかもしれないし…

1996

船と、それから宿の予約。なにかに導かれるように。取り憑かれているようにことが運ぶ。わたしは仏蘭西へ行かないだろう。今は、あまりにも遠すぎる。

1995

愛しいひとへ送る言葉を飲み込む。咀嚼して、飲み込む。あなたは私がどれだけ愛しているかを永遠に知らない。

1994

多忙を極めている。絵を描く時間もままならない。煙草をやめれば良いのだけど。

1993

古いアルバムのことを教えてもらった。そして、なぜあの地に先祖代々の墓があるのかも。浅井三姉妹に縁がある寺に眠るわたしの先祖のことを思う。よくわからないけれど、幼い頃から本堂の裏にある湿ったあの墓地が好きで、心が安らいだ。霊園が好きという友…

1992

ずっと家の中にいた。何もする気になれなかったからだけど、そういうのが冬季鬱には一番悪いと思う。一方で、これが季節的なものなのか、性格なのかわからない。

1991

今年も文化的なことはなにもしなかった。もう何年も前、この時期は11月祭で何度か訪れたように思う。流行病の前だった。

1990

ベルリンの壁が崩壊したときの記憶はない。湾岸戦争のことは、うっすら憶えているけど、どういう事情でそうなったのかまでは知らない。子供の時はしょっちゅう戦争の夢を見た。焼け野原にいるのだ。怖いとか、悲しいとかいう気持ちではなく、ただ不安だった…

1989

この国で一番信者が多い宗教を信仰する家庭に産まれた。信仰二世どころではない。漢字にしてたった六文字唱えれば、なんでも大体許されて、特に修行の必要もなく死んだら仏になれるらしい。 高校はカトリックだったので、その頃、割と真面目に改宗を考えてい…

1988

昔まだアメリカとアフリカの区別もついていなかったころ、わたしは魔女になる為の修行を始めた。母は女になることを選んだので、魔法を諦めた。幾つかの呪文は知っているが使えない。使うことを許されていないという方が正しい。そういうわけで、パリとロン…

1987

チョルノーブリの原発事故が起きた次の年の春にわたしは産まれた。名もなき極東の地で、まだ雪に覆われた町の湖のほとりで、満月の夜だった。船乗りだった祖父の顔を知らない。海辺では鰊が獲尽くされて、父は炭鉱へ出稼ぎに行き、時折届く現金書留だけがそ…

1986

言い間違いを訂正した。非常に大切なことだったので、直す必要があった。彼女はおそらく探し出すことが出来るだろう。それは調査力や観察眼の鋭さではなく、第六感というか感覚的な力が強いからだ。神経衰弱はめっぽう弱いが、生まれてくる赤子の性別を当て…

1985

天と点を繋げる。点と点ではない。 古い写真を見た祖母が、この人も、この人も死んでもたわと言い、あ、みんな死んではるわ。アハハと笑った。古い写真に写る3人の男たち、そのとき既にもう立派な大人だった。

1984

某市へ行く予定があるので、喫茶店について調べていた。なんど見ても駅の近くにあるのに、目的地と違う地図が表示されるのでおかしいと思ったら、旧国鉄と私鉄の違いだった。あまりにも離れているのでそこは諦めようと思うが、異国の名前を冠した素敵な喫茶…