1393

遠くにある民家の二階の窓が真っ赤に見えたので 燃えているのかと思ったら 夕陽の照り返しだった もちろん煙も立ってはいなかったいくつかのクラシック名盤と呼ばれる曲が収録されたCDを借りた ルービンシュタインが演奏するショパンのポロネーズは誰か別の…

1392

繁華街へ出ると 街中すっかりクリスマスの飾りで賑わっていた この国で初めてクリスマス商戦を手がけたのは何処の店だったか知らないけれど 本来の意味を失い ただ売上を伸ばすという純然たる意志のもとに イルミネーションを点灯させたり 大きなクリスマス…

1391

白い傘をさして歩く男の人たちの列を追い越して みぞれ混じりの雨が降る大通りを早足で歩いて駅舎のなかへ入ると 暖房はついていなかったけれど 屋根があるだけで暖かく感じられた 濡れた髪とコートをハンカチで拭い 手鏡で顔を見ると 鼻先と頬がやけに赤く…

1390

昼過ぎ 窓の外をふと見たら 銀杏並木が陽射しできらめいていた 三階の部屋からは背が高い樹の上のほうだけが見える 風が吹くたびに 激しく揺らいで 舞い上がる葉は黄金の風になる来客を見送るため 階段を降りて玄関へ行ったついでに 裏口にある駐輪場のほう…

1389

写真の現像が仕上がっているけれど まだ取りに行けていない 撮るときはわくわくして現像に出す日が待ち遠しいのに 出してしまえばもうどうでも良くなってしまう とはいえ責任をもって引取りには行くしかし本当にろくな写真が撮れていないのだ いつもそう ぼ…

1388

ストロベリーでも ヴァニラでもない 甘い香り わたしはこの香りを知っている 有名なブランドのパルファンや 最初は珍しかった 近頃流行りのフィグやポメグラネートのフレグランスでもない もっと身近で懐かしい そしていかにも合成されたという安っぽい香り …

1387

ピアスのひとつでも開けようかと思い色々調べてみたけれど 針を刺す痛みよりなにより 引っ掛けて千切れそうなのが目に見えて それが嫌だ 痛いことより失えたり 戻らなくなったりすることが悲しい

1386

また外へ出ないうちに一日が終わった 変に暖かい日が続くので季節というのもあまり感じられない こんな穏やかな日は コーヒーの入った水筒 シナモンロールと林檎を入れた籠を持って川べりへ日光浴へ行くのにうってつけなのだけど 気づけば日が沈んでしまった…

1385

束の間の寂しさを節度ある友愛で埋める わたしたちは友達なので性愛抜きの接吻を躊躇うことはない ただ去り際に行うなにかを確認した印のようなもので 乾いた唇を重ねようと何も生まれない窓の外で強い風が吹く音 そして銀杏の樹がざわめき 葉が幾十枚 幾百…

1384

歩くたび枯葉がかさかさと音を立てている公園の小道を 朝のひかりが穏やかに照らしだすと 梅雨で濡れた落ち葉が金色に輝いて見えた ほとんど風は吹いていない 見上げれば白む空 黎明の青になるまえの 昨日を飲み込んだ夜の闇が遠き山並みへと消え去ったばか…

1383

日々の暮らしに専念するうちに 生温さを求め やがて鋭い水晶に触れることすら恐るようになるのか 若者たちは不安な素振りを見せずに働いている それは居場所があるから

1382

伐り倒された梅の老木は倒れてなおも 真っ直ぐに伸びた枝を伸ばしていた まもなく重機で運ばれてゆくだろう かつてここらは住宅街のなかに残された最後の畑があり その端に大きな古い白梅の木が植えられていて 雪が降ると一面の銀世界がひろがり 葉を落とし…

1381

遠くに広がっている光の壁はマンションだった うんざりした顔が車窓に並んで映っている 期限つきの思い出作りは証拠を残してはいけないので レシートも お店のカードも シュレッダーにかけて食べてしまおう ぱりぱりぱり 骨が砕けてゆくわ 愛していてもいな…

1380

今年の冬は温かいらしいよ なんて噂に安心してたけどやっぱり寒いのは寒い 息を吸うと鼻の頭がつんと痛くなって 狐の襟巻きを巻いた首をすくめた イルミネーションが輝いてる夜の帰り道 どこからか聴こえてくるマライア・キャリーの歌声 今すぐ会いに行きた…

1379

正しいとか間違いとか ぜんぶ虚言だとか 近頃では本人もわからなくなってきたらしい あなただけに教える真実を知りたくはないし 目に視えるものすべてが事実だとも思わない あなたの奥さんと友達になったのと妖しく笑う女を止めるだけの潔白さをもたない男が…

1378

白いニットのワンピースを毎年試着して結局買った試しがない というか今年も似合わなかった アラン模様がすてきなのだけど 少し大きすぎて柔道衣のようにも見えるし 長すぎる袖は実用性に欠けるので 良いところといえば値段だけだった 買わない理由が値段な…

1377

ろくでもない夢を見て 笑い飛ばすために話したら 予想通り笑ってもらえて良かった 今日もたくさん歩いた それでもまだ 足りなかった わたしたちには時間が足りない 空白を埋めるために話がしたい あるいは沈黙したい 空白のなかにいるとき わたしたちは同じ…

1376

ハニー 今日からあなたをそう呼ぶわ ぐるぐる回るメリーゴーランド あなたは振り向いて 何て言った?と聞いたので いいえ なんでもないのと答えた そうよ なんでもないの似たような家が並ぶ住宅街を通り抜けて シェパードの話をした 北国ではみんな番犬に飼…

1375

送り忘れたメールのことを明日に思い出せるだろうか もう送らないでもいいかもしれない 今更 どちらでもいい 忘れているだろう朝 あなたのために祈ることを辞めてからも健やかな気持ちでいます 元より祈ること自体が病むもととなっていたので あなたのことを…

1374

ほんの少しだけ早く起きた 仕事を休んだ朝日の出が遅くなったせいでまだ薄暗い庭に 枯れた花を埋めて 新聞をとり やかんで水を沸かして白湯を飲むと 鳥の鳴き声とどこかのうちの雨戸が開かれる音がした買い物へ行き 昼は外で食べた それから病院へ行き夕方 …

1373

わたしはわたしが心配しなくてもいいひとたちのことを心配することを辞めたほうがいい 見返りがあるとかないとか以前に わたしがやらなくても他の人がいるので というか わたしでなくてはならない理由がないなら 放って置いても枝葉は茂り 魚たちは産卵し 残…

1372

予定していたことの半分しか出来ないのは昔からなので 半分出来たら良しとしておくシネマ・コミック8 平成狸合戦ぽんぽこ (文春ジブリ文庫)作者: 高畑勲出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2015/01/05メディア: 文庫この商品を含むブログを見る 何度読んでも…

1371

雪虫が飛んでいた急に寒くなったので 身体を温めるものを コニャックでもひっかけようとバーに行き ふいにJのことを思い出した 彼とは東欧の地方都市であるOから鉄道で工業都市Kを経由し 首都Wを目指したときに車内で偶然知り合った男だった 年齢も職業も…

1370

どこで暮らそうとも近くには水辺があった もしくは 水辺の近くで生活が営まれていた バプチャやマトカの故郷は貧しい農村で つまり彼女たちのやり方を見て育ったわたしもまた その貧しさがあたりまえのことであったから 緑かがやく森さえ信じて なにも知らな…

1369

電車を乗り継いでは降りるたびに 空気が冷えて澄んでゆく 夕焼けの橋を渡り これで今日は終点まで景色を眺めるだけとなった 高架に敷かれた単線の路を焦ることもなくゆっくり走りながら通り過ぎる人気のない停車場 その待合室と呼ぶには簡素すぎるトタン屋根…

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話すことがなくなってしまった午後 旧知の友人とベンチに座り ぼんやりと空を見上げて「なんだか老後みたいだね」と言った 老後なんてまだまだずっと先のことで くたばるまで働き続けなきゃいけないんだろうけどいつかわたしや彼のこどもたちにまたこどもが…

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マシュマロ入りのココアを買った お湯を注いで混ぜているうちに溶けてしまうくらいちいさなフリーズドライのマシュマロが入っていて マシュマロを先にスプーンで分けておけば後から入れて少しは楽しむことが出来る もっとも何を食べているかはわからないくら…

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空になった瓶に新しい花を生ける なるべく日持ちがする緑が鮮やかな枝葉クリスマスカードを用意すること 併せて近況を知らせる写真も1〜2枚 なるべく楽しそうで 眼が赤く光っていたり指が写り込んでいないもの義弟の誕生日のために3の形のキャンドルを買…

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湖へ行った とても良い天気で雲ひとつない青空が湖との境界線を曖昧にして とけこんでしまっていた わたしと兄は砂浜を歩いて いくつかの貝殻を拾い 投げて また湖のなかへとかえしたり 乾いた流木を踏んでぱきぱきと折れる音を楽しんだりした 途中 砂浜がち…

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秋のことは好きでも嫌いでもないけれど いつのことかがいつもおぼろげ たぶん紅葉がはじまった今がそうなのだけど このところ少し暑すぎる 過ぎていった季節は恋しくなるもの