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春祭りにきて 辺りに漂う日本酒の匂いで思い出されたのは葬式だった 故人を偲ぶ傍で催される宴のことだ 北国で暮らしたうちの年寄りは皆 真冬に死んだから私はいつも霙にうたれながら遺影を持ち 雪のなかを歩いた 墓地は白い雪に埋もれ 僧侶は粛々と念佛を唱え こどもたちは静かに泣いたものだった


祭の日はいつも天気が悪い 大抵はこの雪が最後の雪になる 奉納された山車が炎に包まれ 辺りは煙り 夜が明ければ春がやってくる 雲雀が鳴き始め 枯れ草の間には薄い青色の小さな花が幾つも咲き始めている 蕗の薹は気づけばもう食べられない程に育ってしまい いつも機会を逃す 間も無く蒲公英も咲くだろう 

17の頃に暮らしていた北欧の小さな街でも やはり冬の終わりには火を焚いた ひっそりと死んでゆく季節を弔い よろこびを迎える炎は美しい