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洗い桶に溜まった水に 漂白剤をほんの少し注ぐと 磨り硝子が透した朝の光で薄明るい洗面所に塩素の匂いが立ち込める 汚れた布を水に入れて指先で水に触れて思い出すのは 小学校での水泳の授業だ 泳ぎ疲れては温くなった消毒槽に隠れていた昼下がり 笛の音と級友の歓声を聞きながら 消毒液の匂いのなかで ひとりきり微睡んでいた 自由に泳ぐことは許されてはいなかった まだ何も知らない少女の肉体が憶えたのは 眼を洗う真水の冷たさと 灼けた地面の熱さだけだった

漂白液に浸けた布の汚れは やがて水のなかへ消えてゆく 初めから何も無かったかのように
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