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「男女間で友情が成立しているということなのかしら」私は受話器を持たない方の手で絨毯についた毛玉を毟りながら言った「肉体関係があるのに」と電話の向こうで彼が笑う声がした 「他の人より少しだけ詳しく知ってるのよ」あなたの性器のかたちや 絶頂に至る瞬間のことなんかはーとは続けなかった けれど彼が私を知るのと同じくらい 身体の奥底で知っている それが現実的に一体どの位の意味があるのかはわからない 私たちが親しくなれたのは 物理的な距離よりの近さも 感性や偏見の許容範囲が似ていたというだけだ

「また欲しくなった?」一頻り話したあとで彼は「おねだりしてごらん」と言った 私は煙草の火を消して窓を開けながら 恋人がいる人には求めない主義なのと答えた 「彼女とはあまりしていないんだ」夜の冷えた風が下ろした髪を揺らした 階下を覗くと玄関前の広場は散りはじめの桜が毛の抜けた絨毯のようになっている 「また機会があればね」と言って窓を閉めた

次の休みには絨毯を片付けて床を磨こう 新しい絨毯を買うかどうかはまだ少し先の話
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