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汽車のなかで眠りに落ちてしまい ふと気付くと 目的の駅を過ぎていたので 止む無く次の駅で降りようと辺りを見回すと 斜交いの席にAがいた 彼女は中学時代の同級生で 学年一の秀才かつ美少女であると 近隣の中学にまでその名を馳せていた優等生だった そのAが当時のままの姿でいる アイロンのかけられた 真っ白なブラウスを着て プリーツのスカートは 規則通り膝の少し下まである 黒髪の巻毛は 彼女のコンプレックスであるのを 私は知っていたが その波打った絹糸のような美しい長髪は 日本人形のように白い肌をもつAを 幾らか西洋風に 愛らしさをきわ立てるものだった 今 目の前のAは 少し伏し目がちに 背筋はしゃんと伸ばして 行儀良く膝を揃えて座ったまま 唇も眉も動かさない 一体私はどの位彼女を眺めていただろうか? 私たちが最後に会ったのは 中学の卒業式であったから もう20年は経っているのだから 其処に居るのがAであるはずはないのは確かだった 或いは彼女の娘かもしれない 私はどうしても真相が知りたくて Aの方に向かって声をかけようとした瞬間 彼女は顔を上げて 私の名を呼んだ 途端にがたんと音がして 汽車が止まった 慌てて外を見ると其処は 通過した筈の目的の駅で 座席にAの姿は無かった

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