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深い眠りから目覚めて降り立ったのは あの人と初めて口付けを交わした停車場だった 雪の舞う芯から寒い夜で 酒場で身体を温める以外に 為すべきことは何もなかった
私たちはふたりとも 健康でありながら 仕事もなく 行くあてもなく まったく余計者そのものであった しかし私は放浪者として 流離い続けなければならぬ宿命を背負っていたし 彼女もまた精神的売春婦として 生きるほかには どうしようもなかったのだ 私は少し顔を傾けて 彼女の柔らかな唇を食み 舌を差し込むと 薄荷の香と火酒の味がした 冷えた指先からは想像出来ないほど温かであった 

今夜はつめたい雨が降っている あの人は何処にいるのだろうか 知る由も無い

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