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耳を塞ぐ 涙が出る 箸を落す 玉葱の味噌汁 声が出ない 口ばかり動いて 声が出ない なんて弱いのだろう 彼女が姿を消した隙に 火酒をグラスに注ぎ一気に飲み干した 喉が灼けるように痛む 戻ってきた彼女が どれだけ飲んだのかと叫んだので 実際の半分を申告した それから 浴室で倒れた あのまま死ねたらよかった 私は浴室が好きだから 手首を切って死ねたらよかった 切らなかった私は 水が流れてゆく音を聴きながら ぜんぶ 無かったことに出来たらいいと 言いたかったけれど 声が出なかったから これはぜんぶ 無かったこと