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まだ二十歳を過ぎて間もなく 女給をしていたときのこと 仕事を終えた彼女が 帰路につき 高倉通を上がっていた真夜中 海軍さんの少年兵と擦れ違て 振り返ったら誰もいたはらへんかったのと あの日 私は小花が散った浅葱色の絽の着物を着てたから きっと今くらいの時期やったと思うわと 彼女はまるで 旧知の友を語るように微笑んだ