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北の地で墓前に立つ わたくしの祖父は 戦争で死ななかった 満州へ行っていたと60年近く思われていたのに 病床にてまだ意識が残っていた僅かな時 初めて上海に出征していたと話し 仕舞いに みなで仲良く暮らせよと 笑って手を振られたのだった
祖父との会話はそれが最期だった

舗装のない泥道に落ちる 桜の影は 虫喰いでレースのように揺れる 頂の雪が溶けた緑の山を望みながら わたくしは手を合わせて 祈った ここいらは何処へ行っても 美しい山が見えるのだ それはたぶん 昔から 変わらない景色