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彼は学生が提出した論文を読むように わたしの書いた掌編を読むと「共感を得ること それが他者に受け容れられる方法だ」と言った 少数から多数まで 読者の心を捕らえるには 共感させるのが最適だと 付き合いはじめて 半年ほど経った頃 文学者の恋人に教えられたのだ それは今でも事実だと思うけれど 売れるため 評価されるために 共感を得ることを手段とするのはともかく それを目的に書くのは腑に落ちず わたしは昇華 あるいは自慰のために書き続けた 彼とは程なくして別れた 愚純な関係性であったが それなりに愛があった かもしれない

共感が前提の表現は価値観が違う人間に何も発信出来ないのではないか という旨を話していた作家の記事を 文学とは特に関わりのないような雑誌で読んで 昔の話を思い出していた