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単線をひたすら走る汽車は 暗い車内で木の床が軋む トンネルを抜ければ山桜 橋梁を渡れば じきに海が見えるだろう 晴れてさえいたなら


見覚えのある石段をくだり またくだって 街へ出た 硫黄の香りが漂う 猫と坂道の多い あの島のことを思い出したが 名前がわからない いつもそうだ 肝心なことを忘れてしまう 好きなひとの顔とか 名前とかを 覚えられないのだ 好きでなくてもわからなくなるけれど それはさして問題じゃない それで あの島は 何処にあるんだろう もう2度と行かれないんだろうけれど ところで此処はどこなのだろう