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泥のような眠気 あの人は嵐を求めて 密林を目指す わたしは鰻が食べたいと思う 北海で採れるあの鰻を 鉈でぶつ切りにして

 
 
雑貨店にて 昔の友人によく似た女性を見かけた 長い 柔らかな髪の毛先は巻かれて 背中のうえではずみ 足音 そう 振り返ったときの 足音が タップの音のようで 彼女は バルカン地方の踊りと歌が とても上手かった 最後に会ったのも 彼女のダンスを見るために 当時の恋人とふたりで訪れた ちいさな料理店だった その後 喧嘩をしたというわけでもないが 他に共通の友人もなく そのまま親交は途絶えてしまった
 
わたしは彼女に声をかけなかった 違うかもしれないという懸念よりは もし彼女であったとき 何を話せば良いのかわからなかったからだ それで良かったのだと思う