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失くした思い出がよみがえるのは 逢う魔が時 死んだ人は帰っては来ない

アニスの香りを 知らないはずなのに ふと漂った甘い空気に わたしは彼女の煙草を思い出した 鳩の描かれた煙草を わたしは試したことがない 見たことがない民族衣装の話をしながら 彼女はしきりに わたしに似合うと言ってくれて いつか袖を通すことが出来たらいいと思う 間もなく三回忌なのだった

狂いはじめた彼女のなかに わたしはいたのだろうか 取ることが出来なかった着信は 彼女が鳴らしたものだったのだろうか 夕陽が沈んでゆく 新月の夜は何処までも深い