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告白しません 懺悔もしません だけどあの夏 言いつけを守り 家に帰ってしまったことを ほんとうは後悔していて わたしはあのまま夜の街から 彼とふたりで脱けだしたかった 愛しかった 長い髪も 穏やかな瞳も 大きな掌と意外に短い指も 甘ったるい声も なにもかも 彼のすべて 恋に落ちた夜に 溶けてしまいたかった 家を出て一緒に暮らそうと言ってくれたとき それが可能であろうと無かろうと嬉しかった グラスの中の氷が アルコールと混ざり合っていくように 火をつけた煙草が 煙となって消えていくように ふたりで大事に消耗しながら暮らしたかった 朝から晩まで 土曜日から金曜日まで めぐる季節を感じながら 生きていたかった それが誰かの埋め合わせであることを知っていてもなお いいえ 埋め合わせとか 代わりになれるものならなりたかった なれなかった なろうとしたけれど わたしはわたしだったし きみはきみだった わたしがきみを想う気持ちが もう一生会えないことと引き換えにしても きみの救いになればいいのに 叶うこともない
 
 
罪も罰もないのに