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ヴォトカ流れる河のほとりで

Das Tagebuch der Lily Mercury

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「ねーあのさ 俺こないだ見ちゃった」「何を」 「首吊り死体」 「うそ」 「ほんと ほんと ◎◎場のちかくにある公園」 「なんでわかったの?」 「警察が来てたから」 「どんな風だった?」 「かっくーんってさぁ 頭が垂れて 腕なんかも垂れ下がってんの あ 木からぶら下がってたんだけど」 「やっぱり目玉とか出ちゃってた?」 「いや そんなに近くでは あ〜ダメだ また思い出してきちゃった」 「ねぇもっと聞かせてよ あたしまだ見たことないのよ」 「もうないよ おしまい 俺らがテニスしてる内に処理されてたし」「男?」 「そう 結構高齢っぽかった」 「あらなんの話?」 「すごいよ こないだ死体見たんだって」「やだー」 「◎◎場のちかくだって」 「そこ よくあるらしいわよ 有り金全部スッちゃって自殺するんだって」 「そう あのへん結構やばいよ」 「でも現場検証してる横でテニスしてたんでしょ」 「信じらんない 図太い神経してるのね」 「いやだってさ 折角行ったし」 「でもやっぱりやだ〜」


生温い夜だった 歩道の傍に立つ背の高い女はニットワンピースの腕をまくりながら 額の汗をぬぐい 男は夏中鞄に入れっぱなしであったであろう紙が捲れて破れた団扇を取り出して扇いでいる もうひとりの女はしきりに髪をかきあげたり 落ち着かない様子で 何度もスマートフォンの画面をこそこそと確認し そのたびに薄暗闇に顔が青白く浮き上がっていた その内 歩行者用信号が青に変わったとき 彼らは横断歩道をわたり 何処かへ歩き去っていった 

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