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ヴォトカ流れる河のほとりで

Das Tagebuch der Lily Mercury

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閉店間際の百貨店へ駆け込み 化粧品店で頬紅と眉墨を買った いつもの女性が店番をしていたので 少しばかり安堵する 彼女は来月発売の口紅の色を手の甲でいくつか試したあとで 似合いそうな色を見つくろい 唇にのせてくれた 艶やかな液体 まるで血のような赤 わたしはそれとほとんど同じ色のマニキュアを持っていて 一年中足の爪は鮮血色に染まっている

店で最後のお客は 担当した店員が出口まで付き添うきまりなので わたしたちは長いエスカレーター脇の白い床を一緒に歩いた およそ60秒の間 彼女は今秋の流行についてぺらぺらと話し それはまるで幼いころ遊んでくれた何でも知っている歳上のお姉さんのようだった 背の高い 横顔が特に綺麗なあの人

閉店の音楽が止んだ店内は伽藍堂で わたしはその奥にある静寂に触れることは許されていない
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