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ヴォトカ流れる河のほとりで

Das Tagebuch der Lily Mercury

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スクリーンに映し出された河の中を泳いでいる無数の小魚たちは 群れになって まるで高速道路を時速100キロの法定速度を守りながら走る自動車のように 鱗をきらめかせ 何処かへ消えてゆく 時折あぶくが銀色に光る 淀みのない河の流れがとても速いことを教えてくれたのは 漁師である祖父であった


秋のおわり 冬のまえ よく研いだ刃で割いた魚の腹には 艶やかな朱色の魚卵が溢れんばかりに詰まっている わたしはその粒々を指先で摘んで 潰したり 潰さなかったりしながら食べた
 
スクリーンに映し出された河の中に 白い足が見える 暗闇を切り開くように こちらへ向かって歩んでくる 次の瞬間 画面は眩い光でなにも見えなくなり 蛍光灯のしたで真っ暗になった画面に映っているのは内臓であることに初めて気がつき 清らかな水面下をゆく流れが カムチャッカの雪のように冷たく 急降下する鳥のように速いことを誰に伝えることもなく あした わたしは繁殖を諦める
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