Subscribed unsubscribe Subscribe Subscribe

ヴォトカ流れる河のほとりで

Das Tagebuch der Lily Mercury

613

献血に行くと 何度か抱いたことのある女の子が看護師をやっていて 僕の採血担当になった 白衣を着ているのを初めて見たので いや そもそも何処で何をしているのかすら知らなかったから驚いた 彼女が何処を愛撫されると悦ぶか知っているのに 素性らしいものを気にしたことがなかったから なんとなく奇妙な気分になる しかし向こうはまったく気にもしていないようだ 血圧を測り 血液検査をしたあと 僕の右腕に太い針を刺し込んだ 管の中を赤黒い血液が流れてゆく 「最近調子どう? あんまり見ないね」話しかけても 彼女は微笑むだけで何も答えない 職場の人にふたりの関係を知られたくないからだろうか 「今度アツいパーティーやるんだ ビッグなDJも来るしおいでよ 女の子はフリーだしさ」彼女が机の上に置いた僕の手に 自分の手を重ねて握った 白い柔らかな手だ しかし 相変わらず何も話さない 「ねぇ 400mlだっけ 献血って…」 彼女の手の力が強くなる かなり強く握られている 初めてクラブの洗面所で愛しあったとき このくらい強く肩を掴まれていたと思う 管の中を血液はぐんぐん流れてゆく まるで血管がそのまま出てきたみたいに 「ねぇ…」 もういいよ そう言おうとして 彼女の名前が思い出せないのに気づいた いや 初めから知らなかったかも 段々と意識が遠のいてゆく ねぇ 君の名前はなんだったっけ もっと君のこと教えてよ

視界が赤黒くなってゆく ちがう それは目蓋の裏にある 闇だ
Remove all ads