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先週生けた薔薇は燻んだ桃色 水に溶いた絵の具にほんの少し黒を混ぜた色のままで 幾重にも重なる花弁を開かせていた このまま花の時が止められたらいいのに ドライフラワーにはしたくない 色褪せた屍のようで悲しいから 綺麗なうちに食べてしまいたい 卵白を薄く塗って グラニュー糖をかけたら きっと初雪が積もった朝の庭みたいになる しなやかな花は口の中で 青くさい苦味と 作りものの甘さが混ぜこぜになりながら はらはらと壊れてゆくんだろう 絶対にひとりで食べなければ 誰かに見られないようにこっそりと 跡形を残さないで 食べてしまおう 綺麗なうちに