履いて歩いた記憶がないから 自分のもののように思えないからなのか そのかたちが あまりに可愛いらしいからなのか ほんとうは そういったものこそ 速やかに処分すべきなのだ 誰の期待も裏切らないで 愛情だけを与えられていた頃の思い出というのは 今では鉛で出来た鎖になってしまったのだから
それでも 靴を捨てられなかった
百貨店の子供服売り場で 居心地の悪さを感じながら ちいさな靴を買った 自分自身のため以外に靴を買うのは初めてのことだったし たぶんもう買うこともないだろう 水色の包装紙に包んでもらい 支払いを済ませてから店を出た わたしに初めての靴を贈ってくれたあのひとは どんな気持ちでいたのだろう