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いつかの春休み わたしは20歳の誕生日を大好きなひとと学生寮の共同台所で ふたりきりで迎えた 夕食後のたわいもない会話 まどろみのなか 日付が変わってすぐに彼女は お祝いの言葉とロザリオをくれた 憧れていた異国の地で 窓から見える景色も 吹きこぼれたトマトスープの色も まるで虚構のように感じられたのに 彼女の輪郭だけは正しく明瞭にあり とにかく幸せだった あの夜 ふたりとも確かに 若くて 健康で 無知ではあったが 希望に満ち溢れていたのだった

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