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悪魔が契約を見直そうという これまでの業績を鑑みるに 僕の腕前は魔界での評価がすこぶる高いらしい 名誉ある地位 庭付き一戸建て 自家用車 あたらしい家族との生活 「彼女 早くドレス着たいんじゃないの」と悪魔が囁く 「悪い話じゃないと思うよ このご時世にさ」 金に眼が眩んだ僕は 言われるがままに親指に針を刺して拇印を押した 朱肉より赤い色が契約書にうつり ちいさなちいさな字で書かれたまどろっこしい文章が一斉に踊りだしたと同時に 悪魔は高笑いして煙になり 契約書を巻き込むと消えて あとにはその写しだけが机の上に残されていた 律儀なやつだ

 

虫眼鏡を使って契約書を読むと 無頼漢になって自由を得る権利には抹線が引かれていた 代わりに様々な義務が押し付けられていたが いずれにせよ大したことではなかった どのみち自由なんてものはないのだ! 今やあらゆる規則と制限のなかで どれだけ楽しめるかが重要なのだ