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あの日わたしはまだ田舎にある ちいさな事務所兼店舗で働いていて それなりに寒い日だったと思うし 実は暖かだった気もする Kはまだ生きていたけど 既に何年も連絡を取っていなかった

 

百貨店の店内放送が黙祷の時間を告げる あの日わたしは職場で 机の下に身を隠して震えていた 何もかもが変わってしまった世の中に対して その瞬間眼にした物事はあまりに少なすぎたし 語れることはない わたしはなにも 語るべきではない 

 

今日 その時間 献血センターで採血をされていた 椅子についたテレビ画面には海を前に大勢の人々が並んでいる様子が 死者と行方不明者の数が映し出されている 看護師はわたしの右腕にすばやく針を刺した わたしはまだ東京より北に行ったことがなかった とても綺麗な桜が咲くという話だけを聞いたことがあって それが何処であるのか今ではもう定かではないのだった テレビではアナウンサーがそろそろ時間ですと言う チューブから血液が流れ出てゆくのを感じながら 頭の後ろにあるスピーカーから聞こえて来るサイレンに耳を澄ませ 眼を閉じて祈った

 

 

 

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