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ヴォトカ流れる河のほとりで

Das Tagebuch der Lily Mercury

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どうして水槽の水はいつも青緑色に透けるのだろう 鋭利な刃物のように尖ったヒレが水面を切り裂き 無数のあぶくを噴き出させる  突風が吹き付けて花を一斉に散らすように あぶくは煌めく


人工海水で満たされた海は 驚くほど精巧につくられていて わたしにはもう本物の潮騒を思い出すことは出来ないだろう LEDライトの照明が明けることのない夜を照らし 眠ることも目覚めることもなく 水槽のなかで産まれたこどもたちは 黎明の空を知らぬまま還ってゆく (しかしそのことに理由や意味を見出すのは水槽の外の話である)



しばしば足のつかない深いところを泳ぐ夢を見る けれどもわたしは顔をあげたまま 速さは出せないけれど あまり疲れずに泳ぐ方法を知っているから 少しも嫌ではなくて むしろ延々と腕を動かし どこまでも続く海原を越えてゆきたいと思っている

だがその海は本当は模造品なのだ わたしの夢のなかで海はもう干上がってしまったから 涙で出来た水溜りしかない そのことを思い出すと 無いはずの対岸にたどりつくので 身体にまとわりつくオリーブグリーンのドレスを水中に揺蕩わせながら 腕を伸ばして照明の電源をつけた 白熱灯のひかりが世界を照らし わたしは岸辺にあがる 鱗だらけの身体で草叢のうえで眠る

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