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まだK市に彼のアパルトマンがあった最後の初夏 群青色のドイツ車 薄荷煙草とワインの夜 名前を忘れてしまった映画とローストビーフ

 

激しい行為のあとで 彼はわたしをベッドに縄で縛りつけたまま眠ってしまった 無茶苦茶だった ふたりともお互いのことをこれっぽっちも愛していなくて ただ貪るように肉欲に溺れ なにも残らなかった 朝 わたしはひとのかたちをした獣の性器を愛撫しながら ふいに死んだ恋人のことを思い出し 我に返った瞬間 自分自身もまた獣であることに気づいた

 

わたしは呪った 鏡に映った自らを 色が似合わない口紅を 腕に残った縄目と痣を 痛みを 肉体的 精神的 あらゆる痛みを呪った 男の性器を 煙草臭い唇を 肥った腹を 傲慢な話し方を 呪った 呪わずにはいられなかった 孤独になった理由を もう決して若くもないのに いつまでも繰り返す過ちのことを 喪失を肉で埋める以外の方法を知らないことを そしてまたひとつの関係が破綻してゆくことを呪い 大いに失望したのだった