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愛情表現が苦手な男だった 言葉にするなどもってのほかで 顔を合わせればいつも喧嘩ばかりしていた わたしが傷つけられたのを知ったときに 相手を殺したいほど憎いと怒ったと人伝に聞いたことくらい 頭を撫でられたり 抱きしめられたりすることはなかった これからもきっとないだろう 昭和の男なのだ そしてわたしは時代に取り残された保守的な女でしかない

 

わたしにとっても 自殺未遂と失声症で癇癪を起こすことでしか愛情を表すことが出来ないというのは 実に不幸なことで 書き物をするなら言葉で表せばいいのにと嘲りを受けるだろうが 事実まったくの別物であるのだ 虚構の世界でどれだけ愛を語ろうとも 真実にはならないように