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白い清潔な部屋のなかで 今際の際にいるのが自らだと想像してみる 別に砂埃の舞う路上でも 虹色の油がにぶく輝く波が押し寄せるごみだらけの海岸でもいい とにかく死にかけているところを

想像してみる それは単純なことであるのに 容易くはない

 

独りで死んでゆくのは寂しいと彼女は言う 夫や子供たち そして孫に囲まれて穏やかな最期を迎えたいと願っている そのために結婚しなくてはいけないとさえ言う わたしは死んだあとのことなんてどうでもいい 荼毘にふされようと 犬に喰われようと どうでも構わない 生きているときのことの方が重要なのだ 死は誰にでも平等に訪れる 生きるということは当たり前のことではないのに 忘れてしまうのだ 呼吸をするのに意識しないのと同じことで

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