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近頃わたしはとても疲れてしまった 気のせいか白髪も増えたし 目尻の皺も目立つ 疲れたなんて言いたくないのに 身体が言うことをきかなくてはどうにもならない

 

海に行きたい

今はまだ泳ぐには適切な時期ではないし たとえ可能だとしても気力がない けれど波の音を聴きたい 冷たい水に手を差し込んで 指から落ちる雫に太陽の光を反射させたり 本当に塩の味がするのか舐めたりしたい 嵐がくる前の夜 わたしは知らない人と砂浜を歩いていた 今ではとても愛しいひとであるのに 未だに彼が何者であるのか理解することが出来ない 横顔が特別に美しくて 長い黒髪が潮風に吹かれて流れるのは あの丘のある街にいたひとそのものだった

 

もう彼はここにはいない どの海を探しても 嵐のあとで わたしは稲妻のように消えて 戻ってきたときには既に遅かったから 今ではもうすっかりくたびれてしまった 誰が悪いということもなく 恨むこともなく

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