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対岸では河床の下に備えられた電撃殺虫器が 等間隔に青白い光を放ちながら ばちばちと音を立てている 通りすぎてゆく自転車の前照灯が時おり辺りを照らすだけの暗闇 岸辺の草むらのなかでわたしたちは眠る まるで死んだように眠る サイレン わたしたちはほとんど死んでいる 夜風はとおくの山の雨で冷えたのか 火照る肌のうえをやさしく滑ってゆく そのことをまだ誰にも話してはいない