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酷い眩暈を感じて舞台のある講堂を抜け出し 外へ向かった 近道をしようと礼拝堂を通ろうとすると 神父さまたちが会話をしていたので諦めて長い廊下を歩き ようやく広場へ出ると雨が降っている 吐き気と悪寒 上演時間が迫っているというのに 逃げ出しても仕方ないのにどうすればいいのか 視界はしろっぽく霞む

栗色の巻き毛の女が傘をさしかけてくれた 丈夫そうな金属製のフレームのメガネをかけているが神経質という雰囲気ではない 彼女は明瞭なドイツ語で安否を気遣ってくれるので 貴方が誰であるのかと尋ねると わたしの恋人だと答えた わたしに同性の恋人がいた覚えはないのだが もしかするとそうなのかもしれない 彼女はわたしを連れてアパルトマンへ行った 5~6階くらいだろうか 丘のうえにあるため景色がとても良い 雨に濡れたオレンジ屋根と石畳の灰色が湖のほうまで広がっている 彼女はわたしの濡れた服を脱がせ ふたりで浴室に入った 熱いシャワーはとても気持ちが良い 彼女はわたしの身体を洗い わたしは彼女の身体を洗った 櫛切りにした檸檬で白い背中を擦ってから 半分に切った白桃でやさしく撫でると しなやかな身体は震え わたしは確かにここで彼女と暮らしていたのだということを思い出し始めた

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