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旅券を申請しながら あのひとの故郷のことを思い描いた 午後の陽射しは残暑のそれで しばらく坂道を歩いただけですっかり消耗してしまったが 休む暇もなかったので歩き続けた

わたしが知らないあの人の暮らした町 あの人もまた わたしを知らない 名前を奪われ 言葉を蔑まれ 歴史を踏みにじられて 運河と通りだけが変わらずにある町を いつか訪れる日が来るだろうか