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北の町で暮らす叔父から小包が届いた 今年も雪が降る前に河へ行ったらしい 特に手紙らしいものも入ってはいなかったけれど 彼は魚を捕まえるのがとても上手いのだ 髭もじゃで 縮れた長い髪を束ねた大男だから私や兄が幼いころは ずっと 熊さんと呼んでいた 彼はよくある話のとおり その風貌に似つかわしくないほど優しく繊細な男で やはり穏やかで美しい妻がいたが よくある話のとおり 彼女は若くして死んでしまった 流行り病のせいであった これが悪い女なら長生きしたんだろうと思っている

 

小包のなかから丁寧につつまれた容器を取り出し そっと蓋を外すと 魚卵が詰まっていたので それを祖父が収穫した米を炊いたご飯にのせて食べた わたしも兄もこれが大好きなのだ まだちいさい兄の子は橙色の粒を摘んで潰したのを舐めて喜んでいた 汁が飛んで母の眼に入った わたしも昔 祖母の右眼に命中させたものだった

 

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