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斜交いの家の女が死んだ ゆうべ家のものにおやすみと言って眠りについてから そのまま布団のなかで息絶えていたという 駆けつけた警察官とお医者さまはその安らかな しかし血の気ない表情に驚いたそうだが 彼女のほんとうの名前や年齢を知るものが誰もいないほど高齢だった というのも死亡を報せに役場へ行った孫が 祖母の名を伝えたとき そんな名前の女はいないと言われて初めて知ったらしい つまり彼女は生まれたときに与えられたのと違う名前で生きた時間のほうが遥かに長かったということだ それが幸か不幸かであるかなど さして問題でもないのだけど