1036

思いもよらないところで 思いがけないひとに遭った 停車場でバスを待っていたら 曲がり角から昔の恋人が現れたのだ しかし例によってひとの容貌を覚えられないので不確かではある もしかしたら他人の空似だったかもしれない わたしは驚いて目を丸くしていると眼があい 相手もこちらを見ているので 段々確信を持ちはじめる 新しい生活を始めた彼がこの近くに暮らしていないこともないのだ けれど今さら何を話すことが? 何もなかった 微妙な空気が流れ わたしは眼を逸らし道路のほうを見た 白い乗用車が何台も走ってゆく 赤や黒色の車両は一台も通り過ぎないうちに信号が青に変わり 駅前通り行きのバスがやってきたので 後ろを振り返らないようにして乗り込んだ 車内から外を見ると彼は停車場の椅子の前でこちらを見たまま立っていた 挨拶でもしたら良かったのだろうか 或いは全く知らないひとだったのだけど