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どの改札を通るときにも思い出すひとの貌がちがうので 行く先を間違えることがない 彼らのなまえが全て Aから始まることに気づいたのは最近のことだったけれど

 

駅を出てさいしょの角を曲がる直前 予感ではなく あのひとが歩いてくることを確信した いるはずのないひとの姿をわたしは知っている 会うべきではないひとと偶然に出逢うこと それは初めて出逢ったときと同じように 予め決められている

 

愛も救いもない 運命と呼ぶにはあまりにも空虚な瞬間 歩道のない道路をあのひとは歩いていた 大きな荷物をさげて まえと変わらない様子で

 

日活ロマンポルノならこのあとわたしたちはふたりきりになれる場所に駆け込み何もかも脱ぎ捨て生まれたままの姿で飢えた獣のように求めあっただろう擦り切れてもういっそ消えてしまえたらいい殖えることを望まないふたりが貪る肉慾は嫌悪と恥辱のうちにあるのだから未来もなにもない