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それぞれの季節が終わってゆく ヒグラシの鳴き声は 実は前から聴こえていたのだけど

スーパーマーケットは相変わらず混んでいた かつてはその棚と人間の間をすり抜けて歩くだけでも 酷く疲れたもので もう一生人混みにはいけないとさえ思っていたのに いつか 彼女がはぐれないようにと差し出してくれた手を握ったとき 無敵になった あの細い指の絡まる感覚を思い出すだけで ちゃんと前を向いて歩けるようになるのだ 斜交いからカートを押しながら歩いてきた女の着ているミントグリーンのカシュクールワンピースはだらしなく胸元がはだけて たわわな乳房が露わになっているが それよりも目についたのは両腕の肩から手首にかけてまでびっしりとついた細い傷痕で なんとなく 色んな生き方があるにせよ こんな傷痕をつけなきゃいけないような事情はなくなればいいと思った

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