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ふるい映画を観た 非常によく知られた曲が今なお新鮮さを失っていないと人気で 曲だけを知っているひとも少なくないと言われている マトカは若いころ汽車を乗り継いで街の映画館まで観に行ったというが 肝心の内容は忘れてしまったらしい 実際のところわたしも鑑賞後に印象的だったのは かの有名なダンスシーンで 他のことは朧げにしか残っていない 確かにどきどきするような逢い引きや 危険な取引を命がけで行う場面もあったのだけど しなやかな動物のように 咲き誇る大輪の花のように踊る姿と比べれば 記憶に残らないのだった 優れた作品というものはそういうものなのかもしれない 或いは愚直に感動を味わいたい大衆向けとも言えよう そこから何か無理に産み出そうとする必要などないのだ 何も考えずにただ感動して流す涙の熱さに気がつけたらいいし 気づかなくたっていい