1336

B.Bと呼ばれたあの有名な女優と同じ名前をもつ美術教師は 初めて会った時からわたしのことを気に入ってくれた どれくらい気に入ってくれたかというと 単位を取らなくていい講義の時間には自分の授業を受けたらいいと強引に空き時間を埋めてしまったり 違うクラスの授業のときでも出席を認めたりしたくらいだ

プラチナブランドの髪と ふくよかな体型に化粧気のない白い肌で 彼女の年齢は判らなかったけれど 実はそれほど若くなかったのかもしれない
彼女の部屋は学舎の一番上 塔の中にある丸い部屋だった とんでもなく散らかっていたけれど 油絵の具の匂いがして心地よかった 家には一度だけ連れて行ってもらったことがある わたしたちは台所で一緒にサーモン・ムニエルを作りながら食事を摂った サワークリームに散らばめられた黄緑色の柔らかなディルの香り 黒く濡れたランプフィッシュの卵 雪の日のことだった わたしたちは間接照明の光が穏やかな寝室のソファに並んで座り 電話帳より分厚い美術書を読んだ というよりは眺めた そうしながら彼女は月に一度 首都へ行きセラピーを受けているのと話し始めた
北国の夜は早いので 私たちが会った時すでに陽は暮れていたのだけど あまり遅くならない内にと 彼女は旧型のメルセデスに乗せ家まで送り届けてくれた 道中 吹雪が止んだ雪道は家から洩れる光や 橙色の街灯やらすべての光を反射してやたら明るかったのをよく覚えている