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あの人の香りは頭が痛くなる たぶん香水をつけすぎなのだ 朝のうちなんて目を閉じていても彼の気配がわかるし 残り香だって

高校受験のまえ 通っていた塾に来ていた男の子たちの多くと仲が悪かった というのも わたしを嫌いな女の子と彼らがつるんでいたからなのだけど その内のひとり 短いブロンドヘアを逆立てて 耳には尖ったピアス 左腕には大きな傷痕がある 少し背の低い男の子だけは 普通に接してくれて でも彼はとても香水をつけすぎていた 今でも思い出せるほどに

夕方 ほとんど薄れた彼の匂いはちょうどいい室温に似た心地よさ どこのブランドの使っているか訊きたかったけれど なんとなく機会を逃してしまってわからずじまいだった 明日から北の果てへ働きにいくらしい わたしはあの人の香りを恋しく思うだろうか たぶん思わない でも嗅いだら思い出すんだろう