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今際の際から戻ってきたひとが 河のような景色を見たという話はよく耳にするけれど 戻らなかったひとはいかに?

ヒンメルの山あいにあるちいさな集落は とても寒いので一年のうち半分は雪に包まれている 短い夏はしかし 陽が沈むことがないので人々は毎晩のように踊り明かし 鮮やかな緑が広がる野原で さざ波が鱒の鱗のように煌めく湖畔で愛を語らう わたしの父母や 祖父母 また曽祖父たちもそのような景色のなかで青春を過ごし やがて死んでいった その日は大抵「この冬一番の寒さ」と言われる日で 墓守の男は死者が墓地からよみがえってこないように見張りをつとめ 弱っている者がいる家ではここが生者だけの世界であることを証明するために 火を焚き 音楽を奏で 夏のように踊って過ごすのだが 朝になれば墓守は死者を連れて昔話に花を咲かせながら帰ってきてしまうのだ そういうとき ベッドで伏していたはずの年寄りは活き活きとしながら起きて外へゆき そのまま雪のなかへ倒れこんでしまう そういうさだめなのだろう