1371

雪虫が飛んでいた

急に寒くなったので 身体を温めるものを コニャックでもひっかけようとバーに行き ふいにJのことを思い出した 彼とは東欧の地方都市であるOから鉄道で工業都市Kを経由し 首都Wを目指したときに車内で偶然知り合った男だった 年齢も職業も教えてもらったけれど正しいかどうかなど知らないし どうでもよかった 終点にて宿をとり わたしたちは「星の港」と呼ばれる酒場で共に盃を交わし 楽しく過ごしたというそれだけのことだ
映画『灰とダイヤモンド』を観たのはそのあとだった なんとなくJと主人公の男が似ている気がして あの夜飲んだのはヴォトカだったのに コニャックを飲むシーンが頭に残ってしまい いや 本当のところコニャックを飲んでいたのか定かではないのだけど しばしば懐かしく思い出すのだった 寒くなってきた頃には