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伐り倒された梅の老木は倒れてなおも 真っ直ぐに伸びた枝を伸ばしていた まもなく重機で運ばれてゆくだろう かつてここらは住宅街のなかに残された最後の畑があり その端に大きな古い白梅の木が植えられていて 雪が降ると一面の銀世界がひろがり 葉を落とした木は水墨画のように佇んでいたものだった 雪が溶けぬかるんだ地面に明るい緑色が芽吹き始めるころ しなやかに伸びた黒い枝に 点々とちいさな白い蕾が膨らみはじめ なんどか氷雨が降り やがて満開になった まだ吐く息が目に見えても 雲雀の歌声が聞こえるようになるまで 然程かからないと感じられたものだ
雪が降る前に畑は埋め立てられ 家が建てられるという噂をきいた それは確かなことだった 雲雀はどこで歌うのだろう