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美術を学びたい と申し出たときに 辞めときなさい 食えないからと却下されたのは良い判断ではあったけれど 語学ならどうなるというわけでもなかった これといって取り柄もない 器量も愛想もよくない女ならせめて試験は頑張って 名の知れた大学に入り なるべく人気があるサークルへ加入して ボーイフレンドを作り 卒業と同時に結婚することを目指したほうがよかったのかもしれない
かもしれない というのは わたしがそのような選択を望んでいないからだ
才能は無かった クロッキーはいつもバランスが取れないし 見たままを忠実に描くなんて出来なかった 絵の具を混ぜて色を作り出すのはそれなりに上手くやれたけど それだけだった というか 貧しさに耐えたり なにかを引き換えたりしてまでも描きたいものはなかったから 残念だけど 教師や親の判断は正しかった
それでも未だに新しい画材を選ぶときはわくわくするし 使うときは期待で胸がはずみ 思い通りの色が塗れたときは本当に嬉しい とても綺麗な言葉と音 そして明確な意味を持った文章が書けたときのように嬉しい