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シーツを取り替えるために階段を何十段も昇り いちばん高いフロアにある防火扉を開け 湿気った暗い穴倉のような部屋に入り 手始めに陽に灼けて変色したカーテンを開けると 一気に光が差し込み 穴倉は寝台が並ぶ仮眠室に戻った

 
わたしは窓を開け 澱んだ空気を外へおいやった 階下は大通り 片側二車線の道路をびゅんびゅんと自動車が走り 信号が赤色に変わるたび行列になるのが見える 古い建物には 窓に柵も手摺も無いので 少し身を傾ければ 簡単に落ちることが出来るだろう 一瞬の苦痛で永遠の自由は得られるのだろうか?
 
眠ることと死はほんの少し似ている
或いはほとんど同じかも
 
 
洗いたての白いシーツを敷きながら 心地よい夢を見られますようにと おまじないをかけた しばらくすると部屋のなかが 少し冷えて 仮眠室の空気が入れ替わったように感じられたので わたしは元どおり窓を閉じ カーテンを閉めた ひんやりとした闇のなかに 夏草の香り「ねぇどこの柔軟剤使ったの」「秘密」
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