Entries from 2017-03-01 to 1 month

776

新しく建設されるマンションは 屋上に山があり その上に霊廟があるので 住人なら鬼籍に入ったとき誰でもその霊廟に祀られるということだった 墓参りは不要 清掃業者が毎日 掃除に来てくれる そもそも一人ずつに卒塔婆や墓標があるのではなく 大きな祠に骨を…

775

他人の痛みを解ったような気になる高慢さと 理解させようとする傲慢のあいだで 愛するひとの望む答えを さも心からの願いであるというように思いながら生きることを 幸福なのだという 「でもそれって本当なの」 「もちろん」 「あたしがどんなに傷ついている…

774

お互いに名前を覚えていなかったので 彼はわたしを "du" と呼び わたしもやはり "du" と呼んでいたのだった 人称代名詞や 愛称ではなく 今更確認して名前を呼ぶのはなんとなく躊躇われたので あるときベッドの上でわたしは "Herr Niemand" と呼んだら 彼は驚…

773

わたしはいつか あのひとがわたしではない女を幸せにしたとき 妬まないで済むようになるべきで それはわたし自身が幸せになるということであると思うけど あのひとなしで幸せになるなんてことがあるのか疑問だし あのひとに関わる人々の関係性はともかく わ…

772

例えば記憶を上書きするなんてことは容易で 元から覚えが悪いから消去してしまうことだって可能ではあるのだけど 今のところまだ約束は守っている 誰と指切りをしたわけでもないわたし自身との約束 守っても破ってもどうにもなりはしない秘密

771

雨で布団が干せなかったので そのままベッドの上で過ごした 夕方 夢の中にピンク色の髪をしたあの子が出てきてとても嬉しかった 一緒に電車に乗ってたんだよ ほんとうに可愛かった あと20センチ脚が長かったら わたしもヴィクシーのエンジェルになりたかった…

770

もう清らかでなくなった関係において わたしはあのひとを愛し続けている そのことが誰にも知られませんように

769

煤けた桃色の髪飾りを買った 花のかたちをしたクリップでとても愛らしい フランス製の髪飾りはどれも普遍的な可愛いさがあり 他にも鼈甲色をしたリボンのかたちのバレッタとか 三日月みたいな細いピンとか 10年くらい使っても少しも痛んでいないし 流行遅れ…

768

誰に聞いても好青年と云われるひとがいて わたしは彼に会ったことがないから 形而上の存在となった好青年である彼に憧れ続けている 本当に誰からも悪い評判を聞かなくて 彼を知るひとはただ「好青年だよ」という (時々文頭に 眼鏡の という外見的情報もつく)…

767

近頃とても疲れている 春が来たらニルゲンドヴォ村へ帰ろう 緑きらめくわたしの故郷 もうそれほど多くのひとは暮らしてはいない 見離された最果ての土地 名前を奪われ 地図の上から消え去った場所 花咲き乱れたる最期の楽園 誰もそこから生まれないから 愛も…

766

春の不眠は悲惨だ わたしは薄暗い部屋のなかにいて あのひとの面影を探してばかりいる 夢から覚めれば何時ともわからない闇のなか それの繰り返し 本当に嫌になる 寂しさで眠れないなんて嘘 あのひとにはもう夢でしか会えないのに

765

よく晴れていたので 部屋の隅に布団を敷き 鎧戸を締めて寝ていた 寝ているときも含めて12時間なにも食べないのをプチ断食と呼ぶらしい 昨夜はすっかり吐いたあとで12時間以上寝たし 普段から週末はよく寝ているのだった 効果があるのかどうかは知らない ただ…

764

眩暈と嘔吐 緊張がとけたときに 解放されるのではなく壊れるのはよくあることだ

763

初めて爪を真っ赤に塗った日 ママは「まだ早すぎる」と言い それから何年かして塗ったら「もっと若いひとの塗る色だ」と言った この非の打ち所がない矛盾 或いは真っ赤な爪が最高に適したほんのわずかな一瞬を見逃した事実に対して わたしは「似合ってるんだ…

762

「性交をしていると段々自分の身体がサカナになってゆくような気がする 光が届かない深い奥底は 暗く冷たく でもそれがとても気持ち良くて もっともっと泳いでいたくなる 息継ぎは接吻 わたしはサカナになるから 息継ぎをしなくても呼吸が出来るはずなのだけ…

761

かつて好きだったひとからのメールに添付された一枚の画像は 彼女の名前が記されたエコー写真で 既に明確な線で現れている胎児の姿は自然の神秘そのものだった なんと素晴らしいことだろう 彼女が母親になるということは! 「まだ男か女かわからないの」と彼…

760

山際の村の夕暮れは早くて 寂しい そのぶん朝が早いというわけでもないのに 通り雨で濡れた甍の波が 波というよりは鱗のように煌めいている ところどころに梅が咲いている 真っ直ぐに枝を伸ばしているのが好きだ 去年の柿は畑の隅で鈴なりのまま褪せてゆく …

759

快速電車に乗ると 既に三人組の少年がボックス席に座り 菓子パンとコーラを食べながら楽しそうに話をしている おそらくまだ中学校の卒業式を終えたばかりの年頃だろう わたしは彼らと同じボックス席の通路側に座った ひとりが窓側へ詰めて座ってくれたからだ…

758

雨の匂い それももう 春の雨の匂い 百貨店の封緘が付いた包みをもらった 明日は休みでいないから と そのひとは言った 家に帰って開けると とても感じの良いドラジェブルーのタオルハンカチが入っていた 大抵色に迷ったらピンクを選ぶけど もしも彼がブルー…

757

お使いに出て饅頭を買った ひとつふたつは小さくて荷物にもならないが 50個となると やたらと重い 前に外郎を買ったときもかなり大変だった 自分で持てないほど沢山買ってはいけないというのは当然のことだが お使いとなればそうもいかないのだった

756

あの日わたしはまだ田舎にある ちいさな事務所兼店舗で働いていて それなりに寒い日だったと思うし 実は暖かだった気もする Kはまだ生きていたけど 既に何年も連絡を取っていなかった 百貨店の店内放送が黙祷の時間を告げる あの日わたしは職場で 机の下に…

755

騙し合いのような関係性に終止符 愛と性欲を混同するのはやめて 保護と支配は双子のように似ていて異なることを かつてはあなただって知っていたはずなのに

754

北国で思春期を過ごしたので 少し肌寒くても 晴れたらすぐ外でお茶を飲みたくなる 冬であってもそうなのだけど 太陽のひかりを浴びながら過ごすひとときは幸せだ 野点には何度か参加したことがあり 梅林でお薄を頂いたときは楽しかった 天気はあまり良くなか…

753

「男に媚びるな」の言葉を間に受けたら「塩対応」とディスられた わかる わかるよね あたしにはわからないけど 「××の女性は個性的でお洒落」とか「日本の女性はここが変」とか うるさいな それが個性でしょうが どうせわかりっこないと思って それが総意で…

752

ラズベリーを乾燥させ 粉にしたのが入ったチョコレートを食べている 今年の冬は例年以上にチョコレートをもらったので 毎日食べてもまだ残っている 嬉しいことだ 子供の頃 5歳になるまでチョコレートを食べることを禁じられていた 虫歯になると信じていたの…

751

視界が曇り 靄が見えると思っていたら強い雨が降り出したので 街行く人々は慌てて走りはじめた まるで夏の夕立みたいだ! 窓硝子に打ち付けられた雨粒はどんどん流れて 滝のように激しく降っている しかし長くは続かないだろう 西の空は既に明るくなっている

750

ウルリーケにも グレートヒェンにもなれなかったわたしの春 通り過ぎていった季節 美しかったはずのひと時 わたしはあなたを愛していた 心から崇め 敬っていた そして畏れていた どれほど近くで話していたとしても 階段教室の教壇と座席のような関係ではなく…

749

透明の袋に入った芽キャベツは青虫のように艶の無い緑色をしていて 張りのある丸いかたちをしている まるで春の希望を一身に詰め込んだように! 冬に渇望した新鮮な野菜を味わうレシピ 芽キャベツの和え物 ひとつまみの塩を入れた水を鍋にたっぷり 沸騰させ…

748

週末なので爪を磨こうと思っていたけれど すっかり遅くなってしまった 薄いヴァイオレットのヴェルニは確かにビオラの紫色をしていて 塗ると爪が花弁みたいになるのだ しかし出来れば明るい時間にしたいことではある ヴェルニを塗るということは 料理も庭仕…

747

北国に暮らす魔女は齢をとらない 自分の誕生日を山奥の洞窟に棄てて凍らせてしまったから 彼女は永遠に少女のままである それゆえにいつまでも若々しく可憐であるのだが わたしの母つまり魔女の姉であるのだが ベッドで朝食を食べて祝い 一族で集まってケー…