Entries from 2017-11-01 to 1 month

1020

破綻するはずの関係性を無理矢理維持し続けたら いつか強い絆が生まれるのか 皺寄せが来るのかわからない わたしは呪う あらゆる形式を重視した無感動な愛を 義務的に強制された望まれない愛を 尊び 妄信的に崇拝することのほうが清らかである矛盾 あるいは…

1019

よく開けた山道を走っていた なんとかスカイラインという名前がありそうな景色の良いところで 樹々は紅葉し 赤や黄色の葉のグラデーションを 常緑樹の濃い緑がその鮮やかさを引き立てていた 白い霞がところどころに漂うとまるで空の上にいるかのよう ここい…

1018

どこまで行っても喧騒 自分自身がそうだったことに気づかないまま失踪 心中未遂をしたどの夜にも死ではない別れがあったことを覚えている必要はない

1017

届かなかった手紙と 忘れた集合場所で 会わなかったのは それが正しかったから でも誰が決めたんだろう? いつまでも純粋で穢れがないと信じたいだけなら電波が入らない山小屋から出ない方がいい 誰かが特別とか自分とは違うとか 半分正解で半分理想みたいな…

1016

斜交いの家の女が死んだ ゆうべ家のものにおやすみと言って眠りについてから そのまま布団のなかで息絶えていたという 駆けつけた警察官とお医者さまはその安らかな しかし血の気ない表情に驚いたそうだが 彼女のほんとうの名前や年齢を知るものが誰もいない…

1015

過ぎていった時代に追い縋るのも 思うようにならなかった世代を憎むのも 自由ではあるけれど ただそれだけのこと 青春を引きづり続けたまま生きても 他人を巻き込んで不幸にするのは傲慢だろう ましてや支配出来る弱いものだけを求めるなんて そんな 自分自…

1014

背の高いダンディなシニア という言葉を体現したような人だった 半年ほど一緒に働き 退職のときには色紙も書いたのに 名前はもはや思い出せない 妻とは早くに死に別れたと話していた しかし浮いた話を聞いたことがない 黒い革靴はいつでも必ずぴかぴかに磨か…

1013

私が着るなんて信じられないような色のコートを試着して まるで似合わないのに 店員は手放しに褒めた 今日は勤労感謝の日

1012

悩むより聞くことが出来るならすみやかに訊ねること 面倒でも手間を惜しまず確認すること 何も言わなかったことで後悔してもぐちぐち言わないこと スムーズな取引はきもちいい あとは何色のマトリョーシカを買うかが問題 予算の範囲内で

1011

久しぶりに訪れた店がまるで違う店になっていた 階数を間違えたのかと思って もう一度上がったり 降ったりしたけど 正しかった もうその店は無かった 確かにここ数年新しいものが入荷されず品揃えは悪くなる一方で足が遠ざかっていたのだけど いつでも気軽に…

1010

むかし 友達とふたりで白い壁沿いの道を歩いていたとき ふいに門扉が現れ (ふいに というのは本当はおかしい その壁も入口も少なくとも100年以上前からあるのだから) なかには銀杏並木と一面金色に光り輝く落ち葉で埋め尽くされた砂利道がひろがっていた 底…

1009

「僕は親が不仲だったんだ」夏に出会った男はそう言った わたしは河へ向かって石を投げた 丸くて平べったい石は水の上を2回跳ねてから沈んだ 「だから早く家を出て新しい家庭をつくりたかった」 夕焼けが家屋の間を沈んでゆく 少し風も出てきたようだ あた…

1008

食堂で昼ごはんを食べたあと そのまま図書室へ行き 宿題を片付けてしまった 一年前にはまるでわからなかったことが 今ではかなり理解できるようになったから あのひとがカフェで砂糖をたっぷりいれた珈琲を注文しているところを想像することだって出来るし …

1007

黄色いコートが欲しい どこにいてもすぐに見つけてもらえるカナリアイエローの綿ツイルで縫われた 膝丈のAラインでシームポケットがちゃんと左右についているの 釦はそう 丸い脚付きの木製がいい 襟は少し大きめの丸いかたちをしていたら素敵 きっとわたしに…

1006

臆病で物臭で そのうえ慾深いのだ このまま許されるはずなんてない 肝が据わっていると言われても 物事を深く考えていないだけで 覚悟なんてものはない まだ何もやらかしてないし やらかしたいこともない ただ気ままに生きているだけで ああ!それでも税金は…

1005

むかし まだわたしが産まれるまえのこと わたしの暮らす家に住む夫婦 つまり両親のことであるが 彼らは猫を飼っていた 白いふわふわした毛のチンチラだったと思う 父はその猫に当時流行していた異邦人の歌手と同じ名前をつけて それはもう文字通り猫可愛いが…

1004

新しい靴をおろさなかった 今日も雨だ 眠気はぬかるみ 爪先から頭までどっぷりと沈んでゆく 黒いブーツは冬の終わりに修理に出したので大丈夫 寒気に鼻の頭を赤くしながらあてもなく歩くことも出来る ホットワインを作って魔法瓶に入れたら シナモンパンをお…

1003

誕生日祝いのお菓子を買いに出かけた この時期に生まれた友人が多いのだ 蠍座だったと思う ひとの生まれた日を覚えてはいるくせに 当日すっかり忘れてしまうのが悪いところ 今年はなんとか大丈夫だったので 間に合うように届けること

1002

冬が来るのが怖い 暗くなるのが辛い 今よりずっと若かった頃には 夜が明けて朝が来るのが恐ろしかったけれど いまでは日照時間が短くなるほうが苦手だ 太陽が西に傾きかけたので慌てて庭の掃除を終え 時計を見るとまだ14時 それでも北の果てでは夕暮れが近い…

1001

その日の朝 わたしは心の底から安堵していた もうあのろくでなしのクラブに入るための伝説をつくる必要が無くなったこと 仲間入り出来る資格を失ったこと ずっと聴こえていたジムノペディがぼやけたようなメロディは高い金属音に変わった 耳鳴りがするように…

1000

わたしのなまえをただしく呼んでほしい それがなにであるか既にご存知のはず まだ憶えているならば ケルキパの山に初めて雪が降り その寒気が麓にまで届いたような寒い夜だった あなたは長い黒髪を頭頂部で束ねて まるでサムライのようだった 若さは単純に美…

999

あたらしい言葉をいくつ覚えても わたしは誰にもなれないし あなたと愛しあうことだってない 同じ時代 同じ国に生まれて 同じ空の下に育ったのに 一度も理解しあうことが出来なかった ふたりの意識 氷が溶けた北極 密林になった砂漠 決して交じり合うことが…

998

眠っても 目覚めても 孤独 しかしそうであることが不幸であるかは別の話なのでマニキュアを塗り直さねばならない

997

封筒の隙間からこぼれ落ちたのは白い砂だった 灼熱の太陽の陽射しを浴び 群青の波にもまれ ときに海藻と絡みあいながら運ばれた 砂 ではなくちいさな生き物の殻は 今ではもう拾い尽くされてしまったとか まだ秘密の場所にはあるとか 遠い南の島のおとぎ話を…

996

物事の忘れかた 秋は足音を無くして 木枯らしに吹かれるがまま失踪した 眼を開けているのがやっとの眠気に抗いながら この先もう死んだひとには会うことがないのだと 当たり前のことを考える でも本当にそうなのかな 薄い膜一枚で隔たれた肉体の脆弱性 決し…

995

しばらく会えなくなるからと 別れ際に花をもらったので部屋に飾った 黄緑色の鉄砲のような蕾が5つもついていて そのうち2つは今朝方開き 真っ白な花が強い芳香を放っている 雄蕊から茶色い花粉が落ちないように咲いたはしから全部取ってしまったので花弁の…

994

髪をあまり切らなかった 美容師の男は「年内にまた会えると良いですね」と言った 本当にもうそんな時期だった 年を迎える前にもう一度綺麗に揃えてもらえるように予定を立てるべきだろうそれから服屋へ新しいコートを見に行った カシミヤが混じっていると本…

993

ニルゲンドヴォにて畑の隅で眠る 午後 枯れた枝についたまま 干からびた赤い木の実だけが色彩を憶えている

992

労働のあとで買い物へ行った 千円のインナーと一万円のインナーが同じビルの中で売られているのは単にそれだけ色んな人が来るからなのだけど わたしはかなり場違いな格好をしていた つまり ぼろぼろのコートを着て 壊れた靴を履いて ふかふかの絨毯のうえを…

991

自分のことくらい自分で蹴りをつけろよ 見ず知らずの他人に口を出されるのは嫌なくせに 身を任せるのはどうして 或いは目的は達成されたのだろうか 本当のことはいつでも夜のうちに流されてしまうのか