Entries from 2015-07-01 to 1 month

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生クリーム 蜂蜜 卵黄と少しの檸檬汁で真夜中に創り出すのは明け方に見るための夢 白いドレスを着た娘たちは踊りながら円になり線になり点になり散らばってゆく おまえたち皆愛していたよ 言葉で表せないほどに 愛していたよ 炎のなかに溶けてゆく瞬間にも …

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歌わない午後に眠る 風の生暖かさ 鏡に映るのは わたしではなく あの人だった

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まだ二十歳を過ぎて間もなく 女給をしていたときのこと 仕事を終えた彼女が 帰路につき 高倉通を上がっていた真夜中 海軍さんの少年兵と擦れ違て 振り返ったら誰もいたはらへんかったのと あの日 私は小花が散った浅葱色の絽の着物を着てたから きっと今くら…

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舗装の無い道を歩き 森を抜ければ湖 こどもたちは生まれたままの姿で泳ぐ 羊は柵の向こう 水浴びは出来ない底が見えない深さの 足が届かないないところを泳ぐのは怖かった けれど 泳ぐときに足はつけないでしょうと言われて 私は 自由になった プールの底か…

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どの夜をタクシーに乗せて帰ろうか ふたりで手を繋がなかった 歌舞伎町で はぐれてもあなたは 探し出してくれただろうか 街娼を見るたびに 彼女たちと何処かの薄暗い扉の向こうへ消えてしまうのではないかと いや それはわたし自身であったのかもしれない

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氷水に檸檬の果汁を零すと ほんのりと白く濁り 爽やかな香りが漂う子供の頃はかき氷を作るための機械が どの友人の家庭にも一台はあったような気がする 銀色の丸い製氷器は なかなか凍らなかったから 子供ながら苛立っていたもので 祖父母の家の冷凍庫は霜だ…

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美しい季節は あまりにも短い マウンドに立つ少年は 牽制などしないし 対峙するバッターボックスの少年は 悔いの残らないよう 全力で 限られた時間を 戦う

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海沿いの土産物屋で 波の音が聴こえるという貝殻が ひとつ300円で売られていた 耳に充てると 貝殻のなかを 空気が抜ける音がして 確かにそれは波の音に似ていたけれど 海の音ではなかったソニック・ユースを聴いたのは むかし好きだったひとが 聴くとよく眠…

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渡り鳥は何処からきて何処へ向かうのだろう デラシネのあの人は 安らかに暮らせる場所を 見つけることが出来ただろうか とはいえ 生きている限りは すべて 仮初めの居所に過ぎないのだけれど

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「折りたたんで持ち運べる傘を買おうとしたけど辞めたわ」と妹は言った 「畳むのがすっごく厄介なの、知ってる?いま売っているのはほとんど晴雨兼用でぺたぺたしたビニルで出来てるのよ」畳むのが多少煩わしくても、急な豪雨があれば困るだろうと僕は言った…

157

愛していようが なかろうが どうだっていい それほど深刻なもんだいではないし 解決させる気もないのだ わたしはただ 復讐を続けているだけでしかない

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ノイズが母胎にいるときの音に似ているというのはほんとうだろうか生まれてきたこどもは 泣くばかりだけど

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物干し竿にかけた 洗い立ての木綿のガーゼが風に揺れる ここには木の一本もないのだから 木々のざわめく音も 葉の隙間から差し込む光などありはしないのに まるで夏の湖畔のように 白く揺れている 子供たちの歓声と犬の鳴き声 サイダーかジュースか どちらを…

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病院へ行き鷄眼を切除したのち、美容院へ行き髪を切ってもらったので、帰宅したら爪も切っておこう 台風で押し流された厄は 塩で清められるのだろうか

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争うことを望まないけれど ゆっくり眠りたい彼女が 部屋に鍵をかけることは 罪だろうか 扉を開けろと罵声を浴びせるのではなく 彼女が部屋にこもる理由を 根底から取り除く または 鍵をかけなくても過ごせるようにする手立てを 誰も言わない

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彼の肩書きや年収は あなたのものではないし あなたの若さや美しさもまた 彼のものではないのだ 何方かだけが 所有した気になっているのであれば 愛ではなく ただの思い過ごし 齢をとって 皺くちゃになってから初めて気づくのでは 遅すぎる 限られた時間は短…

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何もかも失くしたと思った 2013年の夏 死ななかった私は 余計者として 無責任に自由を堪能し 元より何も手に入れていなかったことを知り有り余る暇のさなかに 初めて恋に落ちて もっと生きていたいと 世界中の音を 色を 匂いを 知りたいと願ったあたらしい感…

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その音色 力強く町中に 鳴り響く

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風が吹いても熱波 花はみな 枯れてしまった 煙草をのむと 眩暈がするので うまく歩けない 風が強すぎるのだった

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来週末の〆切に向けて掌編を一本書き上げた もう二度と戻りたくない日々を 美しい色彩で思い出して 感傷に浸るだけで 踏み出さなかった一歩を 後悔するわけでもない 何を必死に勉強していたのだろう 恋をすることもなく ただ性に対する好奇心だけがあり 無謀…

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うだるような暑さで嘔吐 煙草をふかしながらぼんやりとしているだけでもつらい 末端に力が入らなくなり 廊下を腹這いに台所まで進み水を飲んだ 北側の薄暗い部屋で 昔訪れたモロッコやドバイでも日中はほとんど人の姿を見なかったことを思い出した 気温が50℃…

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何を言いたいの と 泣きながら女が小さく叫ぶ男は口を濁して 何か言っているがわからない何を言いたいのか は 何を言っているの とは違う 伺いの疑問で 即答を求めるには弱いのだった 壁にもたれるように崩折れた彼女は まっすぐ家に帰れただろうか 風もない…

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なににもなれない夜でもあなたはやさしい

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群青色の海で 泳げない男たちが 水面へ向かおうと もがいている 光の届かないところは 天も地もわからないのに もっと苦しめばいい 息が詰まればいい どうせ灯りを消したおまえの手が 自ら断ち切ったことを 後悔することもないのだ

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耳を塞ぐ 涙が出る 箸を落す 玉葱の味噌汁 声が出ない 口ばかり動いて 声が出ない なんて弱いのだろう 彼女が姿を消した隙に 火酒をグラスに注ぎ一気に飲み干した 喉が灼けるように痛む 戻ってきた彼女が どれだけ飲んだのかと叫んだので 実際の半分を申告し…

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道路を挟んだ村のすぐ後ろに山 日毎に深い緑に染まる木々は 梅雨前線のもたらした霧に包まれ まだ開かれていない海の浜辺は 何処からか運ばれてきた砂がまかれ重機で整備されている そういうわけで 幾ら歩いても 貝殻も流木も見つからない 雪のように見える…

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断崖絶壁に打ち付ける白い波が砕けて花のように見える 数多の自殺者を弔う波の花 遠く水平線は穏やかにタンカーを運び わたしは海の向こうの異国を想う

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低気圧で鬱屈とした薄暗い部屋の中で神経が圧迫され物音ひとつにも過敏になっているのが疎ましい 作りものの平和ですら涙が出そうになるし 煙った電子音が愛しくて堪らない もう眠ろう

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スプラッシュしたストロベリーアイスを踏まないように階段を駆け上がる BGMは知らない女の歌声 さっき見惚れた白いワンピースは もう姿を消してしまった 彼女は幻 ギョサンを履いた君はどこの海岸を歩いているだろう 競売ナンバーは49 世界をまるごと手に入…

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食料品コーナーへ行き 新鮮な青や赤を眺め それから星の砂糖菓子を買った 彼女のお気に入りというそれは 白い星のなかに きらきらとしたいろんな色の粒が入っている まるでちいさな街の灯のように 幾つも ささやかにある 透明な袋のなかのちいさな宇宙