Entries from 2015-05-01 to 1 month

106

汽車のなかで眠りに落ちてしまい ふと気付くと 目的の駅を過ぎていたので 止む無く次の駅で降りようと辺りを見回すと 斜交いの席にAがいた 彼女は中学時代の同級生で 学年一の秀才かつ美少女であると 近隣の中学にまでその名を馳せていた優等生だった そのA…

105

川縁の砂利道はもう何十年も前から 季節が巡る以外に様子がほとんど変わらなかった 今年もまた蚊柱があちこちに立ち お喋りに夢中になった子供たちが 自転車に乗ったまま その中へ突っ込んでしまい きゃあきゃあと騒ぎ また笑いながら通り過ぎてゆく かつて…

104

赤くひかる星が見える 南半球では月の欠けかたが不思議で ちがう世界にいるような気分になる あなたも見ているだろうか 濁った空に浮かぶひかりを 永遠がない街の片隅は暗いけれど 束の間の夢は煌めく 夜の隙間に

103

果てしない逃走の暁に見た 光の明るさが信じられなくて 夢だったかもしれない 砂漠のうえで 白んでいった 東の空は 何度も漂白を繰り返されてきたのに 最後の星が消えて また 碧さを取り戻した そこにはもう 逃げ場など無かった

102

態とでも辛くされることが 悲しい 打ち明けることが 許されない 蜜の味 理解も 拒絶も 粉々に破り捨ててしまいたい 何も要らないし 失くすよりも

101

薄っぺらい愛の歌が溢れて それなりに満たされた気になってる ヴォトカにジンジャーエール注いでください 混ぜたらもう夢の国 蹄の味はいかが サイレン 赤色灯を回す車が 蹴飛ばされて血だらけの女を運んで行く 夜の駅前には知らないバスが沢山止まる 行先は…

100

初めてRと一緒に海水浴へ行ったとき 彼女はまだ15歳で しなやかな筋肉のついた肢体を陽光のもとに曝け出し 瑞々しい肌は 砂の上で一層白く 美しかった 私もいつか 彼女のように成長していくのだろうと 信じて疑わなかったのに その次の夏 病に冒されたRは帰…

99

庭に蛇が死んでいたというので 見に行こうとしたら もう河に流してしまったという 腹に獲物を詰まらせてしまったらしい からからに乾いていたという蛇の屍体は何処まで流れて行っただろうか

98

磨かれてはいない緑や紫 または無色透明の石に値札がついた店で しばらく品定めをしたが 結局どれも欲しいものが見つからなくて 桃色の塩も買わなかった 骨も石も 死骸ですらも 誰かによって価値がつけられてあるのは なんとなく奇妙で 別の店では 同じよう…

97

あれも これも平気 だけどそれはどうしても無理 という 許容範囲の広さよりも あれも これも苦手 だけど歩み寄れる 妥協出来る 深さが必要なのかもしれない などと考えながら午睡 車内放送を聞きながら 果たして僕は 向かっている途中だったのか 帰路につい…

96

机のうえでは彼女が昨夜生けた芍薬の花が咲いていた 一輪挿しからすっくと開いた八重咲きの花だ 僕は寝台の端に腰を下ろして煙草に火をつけた 彼女はまだ眠っている 胸を穏やかに上下させながら静かに呼吸をしている 朝の光が差し込む磨り硝子の窓を開けると…

95

私の幸福度 あなたの物差しで測れないし 多分それ短くて足りないし そもそも古くて目盛りが読めなくなってるの気付いてないのね

94

まだ16か17だった頃 旅先で友人たちと夜の街で踊ったかえり 市電に乗っていたら 酔いどれが 公園の花壇に咲いたような雛菊を摘んだ 小さな花束をくれた 酒気おびて 頬を赤く染めた 太っちょの男たちは この国がまだ自由ではなかった頃に青春時代を送った年頃…

93

あなたの名前を呼んでみる ちいさく 誰にも聞こえないように そっと どんなに雨が降っても 世界は煌めかない 自殺志望の女給が手を滑らせて落とした どの酒盃も割れてはいない 叶うことのない願いは 誰にも壊せないから あなたの名前を呼んでも 咎めらること…

92

柵のついた窓の硝子を 琺瑯の浴槽を 曇った鏡の洗面台を磨き 最後に仏蘭西語が書かれた包装紙を破って あたらしい石鹸を置いた 夏の夜に嗅ぐ甘い花のような香りが浴室にひろがり 私は柘榴の香りというのを知る あれは種が多くてどうにも食べ辛いが いろかた…

91

濡れた草むらを歩くのは 楽しい 雲間から覗く青空は 愛しい 土手の向こうには ヴォトカの流れる河がある エタノールの香り 遠い記憶が呼び起こす眩暈 あなたは知ってる?

90

雛罌粟の名を冠したマニキュアを塗った夜 緑輝く山奥にある修道院を夢に見た 私は黒い服を着た孤児で お父様が馬車に乗って迎えに来て下さるのを待っているけれど 本当は皆んな散り散りになってしまったのを知っているのだ 麓で戦争が起こるたびに村の男たち…

89

性交は単なる自傷にすぎなかった 肉体的にも 精神的にも 傷ついたことは目的に適っていたけれど 愛する人の前でさえ 彼女は演じることしか出来なくなっていた

88

最後に会ってから何度も月は満ちて また欠けて でももう二度と会えないから 僕だけが齢をとってゆくね

87

どこもみんな季節外れの台風のことばかり話してる 石垣島に煙草畑があるなんて知らなかった 陽に焼けた君の額に 濡れた髪がくっつくの 五月雨じゃなくて豪雨のせい

86

我慢出来ることだけ 理解出来たことだけを 誇らし気に どんな嵐にも耐えられるだなんて 一体あの人は 何が欲しかったのだろう 偏見を持たないと胸をはって 私を選んだ理由こそが 偏見そのものだった

85

結婚が全てではないとはいえ ろくすっぽ働くことだって出来ない処女の私が孕むのは 不安と絶望だけで ひとりで生み落とすたびに 血に塗れた子供たちが刃物を振り回すから 私の腕は傷だらけなのです 赤いのは死んだ細胞ではなく まだ生きている細胞です 排水…

84

ジョイントに火をつけて 大きく煙を吸い込んだ君の唇が 私の唇に近づく それは 身体に毒だからいけないと 止めるのも聞かないで 頭を引き寄せると無理矢理 私の口の中へ煙をゆるゆると吐き出した 触れるか触れないかの距離が焦れったくて 私は罪を犯してさえ…

83

あなたを悲しませることを避けたかったのに 嘘を吐きたくないという利己的な理由で 真実を述べた私は卑怯者だ

82

土をなだらかにおこし 苗を植える準備を整えた田んぼ 水を張られたらば 空も雲も山もみな 天地を返して きらめき出し いちめんの水鏡になる その真ん中を走るのが 黒光りする機関車だ 煙をあげて町へゆく古い車両だ 沿線には写真機を乗せた三脚が並び 今か今…

81

面と向かって 言えもしない言葉を 他人の手を使って投げつけている内は ギャングスタになれない なれないんだよ

80

手芸店で瓶に入った硝子のビーズや色とりどりの刺繍糸を選ぶ時のような気持ちで 生花店で花を一本ずつ選び 束ねてセロファンに包み リボンをかけてもらうという 愉しみ 真っ赤な薔薇100本も素敵だけど あなたのことを考えながら選んだ花はぜんぶ あなたのよ…

79

柔らかなあなたの身体にある点々とした黒子 すべてに 爪先から順番に口ずけてゆきたい

78

既にゲシュタルト崩壊した活字の海原で あなたの名前を探した きっと星印がついてあるはずと 祈りながら (いや 発表しなかったかもしれない 私はあなたが応募したかどうかも知らないのだから) ぱらぱらめくると 星も丸もない あなたの名前が そこにあった 何…

77

ある夏 誰も彼もが白いパナマ帽を被り あまりに沢山いたので 私はそれを ボーイスカウトか何かの団体の制帽だと思っていたのだった 帽子に合わせるのは Tシャツではなく 襟付きのシャツでなけりゃあいけなかったので 誰もが小洒落た夏の装いで街を闊歩してい…