Entries from 2015-10-01 to 1 month

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どうしてあの日 わたしは流れる河の向こう岸へ行くことを諦めたのだろう どうして夜の闇に 溶けてしまえなかったのだろう ジンジャーエールとヴォトカの混じり合った無色透明の夢のなかで あなたと混じり合いたかった 今でもすっかり緩くなった焼酎のグラス…

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幸福も快楽も官能もぜんぶ お金で買えるものは買うし 売れるものは売るけれど あげたいひとは いらないというし あげたくないひとが 欲しがるし

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共有不可の記憶を前提とした あたらしい記憶の想像 あるいは 感情により 発生した誤差は 大きな歪みを生み出し わたし自身が崩れてしまう危険性をはらんでいるのか さして問題ではないのだけれど

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「何年か前 たぶんあれが初恋だった 好きな人が出来て 私は割と誰とでも寝るから 彼ともそのようにして一夜を過ごしたのだけど かつてない程にしあわせだったことに気付いたのは もっと後になってからだった」「その後も何人かと寝て もちろん今でも彼らは友…

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もう この世にはいないひとの 日記が 彼女が迎えられなかった誕生日の日付で終わっていて ほんとうは まだ 何処かで生きているんじゃないだろうか まだ 再受験のために 数学に取り組んだり 病院へ行って 薬を処方してもらっているんじゃないだろうか そうで…

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何度冬が来ても構わない 生きているあなたに会うことが許されているならば その事実だけを頼りに わたしは

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中秋の名月を共に眺めたひとへ 十三夜の報せを送る夜 夏に進めた時計の針を 一時間取り返してから眠りにつく 暖かな毛布にくるまりながら

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海へ行き きれいな魚が釣られては 逃がされるのを眺めた 食べられないらしい白いレース地のワンピースは 紺碧の波間を漂わず 水漬くことなく 赤煉瓦の倉庫群を通り抜けていった

251

いつまでも繊細な薄い剃刀のようでいたいのに なんて退屈

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あなたと過ごした夏は 島で一番見晴らしの佳い高台へ 置いてきましたから どうか忘れないでまたいつか

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夕方 信号待ちで立ち止まる 横断歩道のむこうに 立っているわたし自身 行くあても無い 若くて 健康であった日々 いま 呼吸をしている この瞬間は 過去であるのか 夢であるのか 或いは現在であるのか 突然わからなくなり 来るはずもないのに 20世紀少年の来訪…

248

上書き保存ではなく 大切なことを 忘れずにいられたら それで充分だと思っているだけ

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北国から来た旧い友人は 相変わらず 表情をあまり変えずに 再会を喜び ほとんど真顔で食事をとったのち とても美味しかったと言った お代わりを3回 私の分の魚まで食べていたので 美味しかったのだろう 国にはもう雪が降ったらしい

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かつてその街で わたしや彼女もまた スノッブな学生であり 仏蘭西製の煙草をのみながら オールド・ノリタケの珈琲カップ片手に 政治や経済 ときには歴史についてまで 学生らしい議論を 真剣に続けていたものだった何も実らなくても 咲かなくても 楽しかった …

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展示室には知らない国の民族が暮らすという家が設置されていた わたしは開きっぱなしの扉から 中へ侵入して 仕切りのない円形の部屋をぐるりと一周した 不思議な匂いがした 部屋の奥 真ん中には髭を生やした老人の絵がかけられている 首長か教祖といった雰囲…

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彼女の瞳の色に似た毛糸を買ったので 冬はもう平気 白雪姫のような あの人 ブルネットの髪 眼はブルーだったし 唇は愛らしかった リエージュの街角で 彼女はポケットから こっそりと フィルムケースに入れた 枯葉のようなものを見せてくれた まだ デジタルカ…

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緩やかに死ぬよりは 勢いよく死にたい ギロチンが落ちる速さで 一気に 誰の手も汚さないで

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夢のつづきを教えて 燃えさかる焚き火は 人間たちの業だと その罪深さが あかい炎になるのだと 金髪の娘は話していた 狩人たち 猟銃を担ぎ まだ夜が明けぬうちに 森へゆく わたしは革の長靴で ライ麦畑を歩いた 星が瞬いているのに 頬が冷たいのは 空気が凍…

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手首につけたパルファム それは 風邪ひきのときに飲むシロップの甘い香り 枕元で絵本を読んでくれたあの人のやさしさ 唇を湿らすように食べた蜜柑は 薄皮を剥かれていた

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橙の花を集めなかった惰眠 また惰眠

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派手なネオンの歓楽街 透明のビニル傘 スクランブル交差点を渡る 人 人 人… フジヤマ シャブシャブ カラオケ ゴルフ… それから静寂に包まれた平安神宮 ロスト・イン・トランスレーション [DVD] 出版社/メーカー: アーティストフィルム 発売日: 2004/12/03 メ…

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90年代 あの頃ロッキンホース・バレリーナはゴスロリ少女たちの憧れだった インターネットは手軽なものではなく 通販もない 当然お金もない 田舎の中学生にはその存在すら雑誌やテレビのなかでしかお眼にかかれないものであったので 手に入れることが出来る…

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交差点の信号が青色になるのを待ちながら ぼんやりとしていると ふいに流れ出す通りゃんせのメロディに驚く ことにいつまでも慣れない君がしあわせであったなら君が 恋人とふたり しあわせであったなら 僕と逢うことはなかったのだろう 君がしあわせでないの…

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遠い街で暮らすあなたを想う 海の向こう 北の端 海猫が鳴く波止場から 今すぐ会いにいきたい 厚い上着を着て 靴紐を締め直し 軽やかに ちぎれ雲 雨になるのか いつかは

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その町 空襲で焼けずに残った 変わらない景色 岸壁が崩れるたび 少しずつ ちいさくなってゆくのか 青草の茂み 冬の寒さをはらんだ 西風が吹く

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眩暈がこわいのは ふいに身体の動きが儘ならなくなること 視界が暗くなること そしてどれだけ続くのかわからないことだ 息を殺すような動悸 指先に触れる流水を とても鋭く感じる 僕は長くても20歳まで生きられないと ずっと思っていた 従兄弟と同じ 15歳で…

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死ぬまで踊り続ける気もないのに

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い草の香る畳の上で 波の打ち付ける岩場で 廃業した売店の机の下で 葛が覆う茂みの奥で 硝子窓の割れた温室のなかで 胸に短刀をひと突きされた わたしが死んでいる 海岸の白い砂は 血に染まるが やがてまた 洗われてゆき 港の灯台だけが 朱くそびえ立ち続け…

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波の音が聴こえる 花になった水しぶきは やがて溶けて また 海へと戻ってゆく 耳を澄ませて いつか ふたりでいかなかった 場所のことを思う あなたの望みを ひとつくらいは 叶えることが出来ていたのだろうか わたしは

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夢もうつつも すべて光であり 闇であり 耳鳴りだけがいつまでも残っているのだ